二年目の春・8

「横島君。 本当に器用だね。」

アナスタシアが来たことで作業が比較的スムーズに進んだので、横島は未だ手付かずの仮設店舗の足場を組み立てる作業に入っていた。

人を頼めばお金がかかるが、機材だけならば格安で借りれるのだ。

高畑も細かい作業よりは得意ということで、横島と共に足場を組み立てる方に参加していたが、慣れたように器用に組み立てていく横島に高畑は改めてその器用さに驚いている。


「前にも言ったかもしれませんけど。元々勉強はダメでしたから。運動もそんなに得意じゃなかったですしね。 俺は。 唯一手先は器用だったのが取り柄でしたかね。」

高畑自身も戦えば無双の強さを誇るが、強さの犠牲となったかのように不得意なことも意外に多い。

横島が高畑にあれこれと手を貸したりしてるのは明日菜の件が主な理由だが、自分とはタイプが違うが高畑の不器用さに少し放って置けないところもあるのだろう。


「大抵の人なら覚えれば出来ることですよ。俺のやれることは。」

今の横島はやはり純粋な横島忠夫本人とは言い切れないので、やはり褒められても単純に喜べない部分があった。


「君と一緒にしていいのか分からないけど、クルトも器用な男でね。 一緒に何かやるとほとんど彼の方が上手かった。 あいつなら将来、ナギ達のようになれるんじゃないかって思ってたんだけどね。」

一方の高畑は何でもこなす横島の姿に、幼き頃の日々を思い出していたようである。

定住せずにほとんどが旅から旅への中で、何となく集まった仲間達に育てられながら過ごした日々は高畑にとって特別なのだろう。


「目指す先は多分、高畑先生と同じでしょうね。 ただ客観的に見てクルトって人は、やり過ぎたら高畑先生が止めてくれるのを、無意識にアテにしていたのかもとは思いますけど。」

「クルトがかい?」

「俺の勝手な想像っすよ。 ただ全部は守れませんよ。 高畑先生もその人も。 俺も。」

高畑は少し寂しげだった。

共に育てられた兄弟のようなクルトの現状に何も感じない訳はなく、個人としては今も変わらぬ想いがあり、ぶん殴ってでも止めたいのだろう。


「全部救おうなんて考えると。 多分、完全なる世界みたいなやり方しかなくなりますよ。 そこに人の意志や想いは邪魔にしかならないかも。 俺はそんな世界はごめんですよ。」

理想は同じでも過程が違う。

ある意味当たり前のことで、世界の破滅でも願わぬ限りは理想が同じになることは不可能ではない。

高畑はやはり全部を救いたいのだろうと、横島は感じていた。

以前にも説明したが、本当のところ魔法世界の限界を救うだけならば、横島には恐らく出来ることだった。

ただ魔法世界の限界が無くなれば、メガロメセンブリアなどはまた自分達の地位や権力を維持して強めようとするだろう。

それは地球側の魔法使いにとっては望まざる展開となる。

かといって過去や二十年前の秘密を世界に明らかにすれば魔法世界は混乱してしまい、新しい秩序が出来るまでどうなるか分からない。

結局全部を救おうなんてしても、望まぬ結果になるようにしか横島には思えなかった。

18/100ページ
スキ