二年目の春・8

「今年も賑やかじゃな。」

「アナスタシアは初めてじゃろう。 なかなか面白い祭りじゃぞ。」

さてこの日も生徒達が登校する時間を過ぎると、店ではアナスタシアと年配者達が囲碁をしながら暇潰しをしていた。

街はすでに麻帆良祭一色で準備期間ながら出店も出てるし、気の早いところはカウントダウンイベントなどと称して騒いでいる。

年配者達はそんな賑やかな街を楽しげに眺めているだけであるが、精神的には年配者達と近いアナスタシアもそれは同様だった。


「いっしょにおまつりいこうね!」

「うむ。 そうだな。」

正直アナスタシアは麻帆良祭はあまり好きではなく、昨年まではこの時期引き込もっていたが、今年はタマモにせがまれて一緒に麻帆良祭見物しにいく約束をしている。

そもそも呪いに囚われていた彼女にとって、素直に祭りを楽しめる精神状態ではなかったのであろう。

呪いから解放されて半年余りになるが、日に日にアナスタシアは過去を想い出の一ページとして消化しつつあった。

楽しげに仮設店舗での準備の話をするタマモの相手をしながら、アナスタシアと年配者達はゆっくりとした時間を過ごしていく。


「ふーん。 早くも騒ぎになってるのか。」

「ああ。 泥舟から逃げ出したい連中が騒いでいるようだ。」

「麻帆良祭前には片付いて欲しいな。 余計なことに気を使いたくない。」

一方横島は厨房で仕事をしつつ土偶羅から魔法世界の最新状況を聞いていたが、相変わらず興味はあまりないようである。

悠久の風のメンバーが必死に事態の打開の為に動いているということもあり、やる気のある人が居るならば任せたらいいとしか考えてない。

詠春の件は流石に頼まれたので手を貸すつもりだが、横島自身は土偶羅に任せる以外はやれることがなく。

かつての仲間の悲しい現状に高畑や詠春の心情を察するくらいはしているが、それでも魔法世界の問題に介入する気は全くない。


「世界が終わるまで騒いでそうだな。 人のやることは何処の世界も一緒か。」

近右衛門は悠久の風が事態を終息してくれることを願っているが、横島は一時しのぎにしかならないのではと密かに考えている。

横島のかつての世界でもアシュタロス戦での横島がそうであったように、世界の終わりが迫ると世界の反作用でも働くのか突如として世界を変えるような人間が現れることがあるが、必ずしもそれがプラスになるとは限らない。

魔法世界では赤き翼がその立場にあったように思うが、魔法世界の人々は彼らが作った時間を無駄に過ごしてしまった。


「近衛詠春の問題はなんとかなるだろう。だが同時にもう助けが来ないと知った向こうの人間が慌てるかもしれないがな」

横島が詠春の件に力を貸してるのは、木乃香の父親だという部分が一番の理由になる。

土偶羅からの報告で悠久の風が詠春とクルトを無関係だと切り離す工作も始めたと聞いても、別に借りが出来たとは思ってない。

尊敬に値する人達なのは高畑を見てれば思うが、かつての西条のように社会的に尊敬出来ても個人として合うかは別問題だし、魔法世界の問題に首を突っ込む気はやはり起きなかった。

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