二年目の春・8

「なかなか、いい出来じゃないっすか。」

「ふむ。確かにのう。」

そして麻帆良祭の準備を終えた横島は、この夜も近衛邸を訪れていた。

詠春が決断したので、本格的な対クルト対策を取るためである。

この件に関して土偶羅は、最初に詠春の数年前のインタビューを模した映像をマホネットに流すことを提案してすでに作り出していた。

内容的には詠春がクルトの件についてインタビューされた内容になっていて、議員になったことに祝いの言葉を述べながらもクルトと神鳴流はすでに関係なく、修行を途中で止めたクルトは神鳴流としては認めてないこと。

そして自分はクルトを後継者にしたつもりもなく、赤き翼とクルトはすでに縁が切れてることなど語る内容だった。

最後に詠春はクルトへのアドバイスとして、過去は忘れ一議員として職務を全うすることを願うと締めくくった内容になっている。

横島は詠春がクルトを止めに行くべきだと語ったが、それでは神鳴流とクルトの関係を周知させる時間がない。

加えてこの映像で赤き翼のクルトに期待してクーデターに加わったメンバーを、離反させることも土偶羅は狙っていた。

最終的には詠春が魔法世界に止めに行くことは可能性として残しつつも、政治的にはその前に止めを刺すべきだというのが土偶羅の案だった。


「このような物、使わずに済めば良かったんじゃがのう。」

「本当に、もっと早く止めるべきでした。」

これでクルトは完全に政治的に終わるだろうと言うのが近右衛門達の見方だが、詠春は自分が今まで曖昧な態度を取ったツケだと反省している。

かつて目の前の小さな命を救い、今ある現実を一つ一つ解決しようとした赤き翼を否定したクルトを詠春達は素直に送り出していた。

その判断は間違ってないと詠春は今でも思っているし、高畑と共に完全なる世界の残党や信奉者と戦っていた事実までは否定する気はない。

しかしクルトはいつしか、目的の為に手段を省みることをしなくなってしまった。

少なくともネギの去就を政治利用した時に、止めるべきだったと後悔するのが本音だ。


「エレーヌ殿には苦労をかけるが、彼女なら上手くやるじゃろう。」

この映像を流せばクルト一派は崩壊するだろう。

現在クーデター計画から離反工作を行っている悠久の翼には少しばかり寝耳に水な話だが、見方を変えれば利用できるはずなのだ。

以前流した内部情報を用いて、この機会に赤き翼の夢を未だに見てる者達の目を醒まさせて欲しい。

近右衛門と詠春は心からそれを願っていた。


「では流してよいのだな?」

「お願いします。」

最後に土偶羅の分体である芦優太郎が詠春に再度確認をした後に、映像は出所不明の物としてマホネットに流された。

それは数時間後には出所不明の怪情報という扱いながら、魔法世界のメディアや政財界の関係者に知られることになりメガロメセンブリアに激震が走ることになる。

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