二年目の春・8

「葛葉さん。今日良かったら二人で食事でも……」

「ごめんね。 ちょっと予定があるのよ。」

一方この日刀子は横島達が忙しいので、夕食は外食にしようと考えながら帰路に着いていた。

そんな刀子が学校を出てしばらくした頃に声を掛けてきたのは、昨年教師になったばかりの若い男性教師だった。


「そうですか。 ならいつなら空いてますか?」

「……ごめんね。 二人で食事はお断りするわ。」

歳の差はさほど違わないが、エリートらしくギラギラした若い男性教師は女子中等部の生徒にも人気がある程だが、あいにくと刀子はあまり興味がない。

実は今までもそれとなくアプローチとまでは言えないような接触があったが、刀子は適当に聞き流していたので、とうとうはっきり誘って来たようだった。


「僕は本気ですよ。 遊びじゃない。」

「分かってるわ。 だから初めからお断りしてるの。」

「僕ではダメだと?」

「好きな人が居るわ。それは貴方じゃないの。」

少々自信家な男性は真面目な表情で本気だと語るが、刀子も大人なのでそんなことは理解している。

だけど正直タイプではないし、今の生活を変える気はもっとない。

困ったことに女子中等部の教員の中には男性を応援するようなお節介な人も居て、変に気を利かせてくっ付けようとしてる人まで出始めて刀子は困っていた。


「噂の人より貴女を幸せにする自信がある!」

「田仲先生。 バツイチの年上から一つ忠告よ。 一方的な関係は長くは続かないわ。 それに私は誰かに幸せにして欲しいなんて思ってない。 ましてよく知らない人に一方的に勝った気でいる人とは、共に歩む気もないわ。」

言っておくが男性は悪い人間ではない。

面倒見もいいし、よく働くと同僚や生徒からの評判もいい。

ただ横島とは対極にいる人であることは確かだった。


「……僕に足りないものは、なんですか?」

「さあ? それは自分で考えるべきじゃないかしら。 私は貴方の恋人でも親でもないわ。 知らないわよ、そんなの。」

魔法とも関係なく、人柄も見た目も悪くない。

結婚相手としてはかなりポイントが高い男性であることは、刀子も内心では認めている。

ただ自信家な性格は上手くいってる時はいいが、結婚すれば価値観の押し付けに変わる可能性もある気がするし、どのみち刀子は自分とは合わないとは思うが。

正直なところ今更告白されてもと思わなくもない。

もっと早く告白してくれれば答えが違った可能性はあるのだ。

しかし皮肉なことに横島と出会い親しくなってからの方が、刀子はモテている。

厳密に言えば以前より人当たりが良くなったので、告白や誘いやすくなっただけであるが。

ショックだったのか放心状態の男性に刀子は少し悪いなと思いながらも、優しくして変な期待をされたら面倒なので冷たく突き放したまま分かれていくことになる。



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