二年目の春・7

「高音さん。 人にはそれぞれ生き方があるわ。 貴女の生き方は立派だけど、人にそれを強要するのは止めなさい。」

美空に面倒なと言われた高音は刀子にまで食って掛かったが、刀子は特に気にした様子はないものの高音に反論して注意する。

確かに高音の言葉は正論だし理想ではあるだろう。

ただそれを人に強要した時点で理想ではなく、ただの身勝手となる場合があるのを高音は理解してない。


「騒いだ人を注意するのが悪いことなのですか?」

「そこじゃないわ。 貴女の魔法使いの理想を他人に強要しないでと言ってるの。 世の中魔法が全てじゃないわ。」

「……申し訳ありませんでした。」

高音は刀子の言葉に不愉快そうな表情を露としたが、流石に教師に必要以上に食って掛かる気はないらしく言葉を飲み込むようにして去っていく。


「悪い子じゃないんだけどね。 魔法協会は軍隊でも警察でもないのよね。 彼女のような人も必要だけど、あれを他人に強要されると魔法協会が成り立たなくなるわ。」

ただ高音の言葉にビックリしていたのは、夕映・のどか・あやか・さやか・千鶴以外の、いわゆるあまり魔法協会に関わりがなく興味もない少女達だった。

少女達の周りの魔法関係者だと刀子は厳しい方だが、それは魔法の練習に関してであり魔法使いとしての価値観やら趣味嗜好まで言ったことはない。

夕映達は何処かで、高音のような魔法使いも居ると聞かされていたので驚きはないようだが。


「真面目な人や。」

「真面目っつうか、価値観が違うんだな。 魔法をただの特技や技術じゃなくて神聖視してるんだろ。 あの手のタイプは何処にでも居るよ。 行きすぎなきゃいいんだけど。」

一方ビックリしていた少女達は、いろんな魔法使いが居るんだなと考える程度だった。

しかし横島は少し極端な高音を気にかけていた。


「なになに。 今度はあの人を狙うの?」

「違うわ! 人聞きの悪いこと言うなよな。」

なお横島が高音を気にかけると少女達はまたかと言いたげな目をしていて、ニヤニヤとした美空はすかさずチャチャを入れてしまうが完全に濡れ衣である。

正直横島はあの手の極端な価値観の人に、あまりいい思い出がない。

まだ唐巣のように自分一人でその道を進むならば、どうぞご自由にと言って終わるが。

しかし他人に価値観を強要する連中は小学校の時の教師や母の百合子に神魔戦争時の神族過激派など、横島は何人か知っているが、ある意味型にハメられるのが苦手な横島にとって一番合わないタイプだった。


「神聖視ねえ?」

「あの人は魔法を世のため人のために、使うべきだって人だからね。 麻帆良だと珍しいタイプだよ。」

ちなみに気配を消していた美空は高音が居なくなりホッとしていたが、彼女は価値観はどちらかと言えば横島と同じなので高音とは合わないらしい。


「世の中の為に何かするのに魔法って必要なん?」

「必ずしも必要ないですね。 寧ろ特別意識は邪魔になると思うです。」

そのまま美空とも別れた横島達は帰路に着くが、高音よりは木乃香達の方がずっと世の中を知るが故に木乃香は高音を理解できなかったらしい。

今年の春祭りでは麻帆良学園の奨学金基金に寄付をした、麻帆良亭のイベントにも参加した彼女達だからこそ思うのだろう。

何故そんなに魔法に拘るのかと。

無理をしない出来る範囲で、世の中に手を差し伸べるのが一番ではないか。

この一年で様々な経験を積んだ少女達は、史実とは全く違う世界を生きていた。




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