二年目の春・7

「やれやれ。 どうしようもないの。 対応を間違ったワシが言えることではないが。」

一方魔法世界の辺境ではネギの祖父の元にもクルトのクーデター計画の情報が入っていて、間違っても乗らぬようにと心配する報せが幾つも来ていた。

悠久の風のエレーヌ・ルボーンに元老院穏健派やクルト一派の一部からも報せが来るのだから、祖父はため息混じりに報せの手紙に目を通している。

元はと言えばクルトがネギの去就を決める際に、余計な介入をして地球の戦時の指揮命令権の話し合いなど持ち出したせいで、ネギは要らぬ注目を集めてしまったという恨み節も無いわけではない。

ただ詰まらぬ小細工などせずに最初から自分が育てて引き取っていればと思うとクルトを非難する気もないが、第一線から退いてみて初めて分かることもある。


「何を企んでおるのやら。」

クーデター計画には何か裏があるのではと祖父は感じていて、まさかネギをまた利用する気ではと警戒もしていた。

相変わらずネギと祖父は一定の監視が周囲に居るが、彼らは何かあっても守ってくれる訳ではない。

プロの暗殺者や傭兵が複数で来れば、戦えぬネカネとまだ未熟なネギとアーニャを守りきる自信が祖父にはなかった。

かと言って姿を眩ましてクルトに協力したなどと誤解されても困る。


「さて吉と出るか凶と出るか。」

クルトが今は亡きネギの母アリカ女王に固執しているというか、彼女の影響を引きずっているのは祖父も十分理解していた。

気持ちは分からんでもない。

祖父にとってもあまり面識はないが、息子の嫁だったのだ。

とは言え今更アリカの問題を蒸し返されるのは、ネギのことを思うと迷惑でしかない。

黄昏の姫御子が行方知れずの現状では滅んだ王国の唯一かもしれぬ王族の生き残りであり、もしかすると魔法世界の正統な継承者が、いずれネギの子に生まれるかもしれないと世界の身勝手な人々には知られたくはない。

最早祖父には魔法世界を救う気などなく、いかに平穏なままネギを育てるかしか考えてないのだ。

結局祖父は悠久の風に対して、護衛に何人か人を寄越して欲しいと頼んでいる。

実は魔法世界最強の男に頼もうかと一瞬悩んだが、何をするか分からぬ男だし、来るかも分からないので悠久の風に頼んだ方が無難だと考えたらしい。


「しかし奴の焦りが気になるの。 もしかすれば世界の限界は近いのか?」

そして祖父がクルトのクーデターから読み取ったもうひとつの問題は、魔法世界の限界は思った以上に近いのかということだった。

ネギが大きくなるまで魔法世界に居るつもりだったが、最悪魔法を捨てても地球側に帰還すべきか密かに悩み始めることになる。

魔法を捨てて一般人としてなら地球側で暮らせないこともないのだ。

ともかく現状ではクルトのクーデターから身を守るのが先決であり、そのことはクーデターの問題が終わるまでは動きようがなかった。

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