二年目の春・7

「セドリック。 これを確認してくれ。」

一方悠久の翼のエレーヌ・ルボーンの元には差出人不明の怪情報が届いていて、エレーヌは腹心のセドリックを呼びさっそく中身を確認しようとしていた。


「これは……」

「一体何処のどいつがこんな物寄越したんだろうね。」

「内容の精密さから鑑みれば内部にリークした者が居る可能性が高いか、それとも情報部でしょうか?」

怪情報であることに間違いはないが今彼女達が必死に調べ始めたクルト一派の内部情報に間違いはなく、情報の真偽は一つ一つ慎重に調べる必要はあるがゼロから調べるよりはよほどマシだった。


「大穴はタカミチと近衛のじいさんかね。」

「地球側の彼らがこれ程の情報を?」

「一件を最初に知らせてきたのを考えれば、それなりに情報収集は続けていただろうさ。 あそこの情報収集能力の高さを考えると、内部情報が漏れたのを手に入れたと考えれば筋も通る。 全くお節介な連中だよ。」

情報の精密さから内部の誰かがリークした可能性が高いが、それが悠久の風に匿名の郵便で届けたのは内部の人間や情報部ではない第三者ではとエレーヌは見ている。

今一番動けないのは何処かと言われると、メガロメセンブリアから見て裏切り者の近右衛門達であることは間違いない。

実際クーデターに一旦賛同した者の中にも、流石にヤバイのではと考え助けを求める者が何人か悠久の風の関係者のところには来ていて、慎重に調べつつどうするか決めねばならないという大変な事態になっていた。

メガロメセンブリア情報部からも一部の良識ある人間から同様の内部情報の一端がもたらされてもいて、今回の怪情報は情報部からではなく第三者だと考える理由になっている。


「タカミチの件はどうなってる?」

「元老院はタカミチ君と今回の件は分けるべきだと言うのが主流です。 せっかく寝た子を起こしたい人は少数派ですね。 今は動かずとも赤き翼の正統な後継者が、タカミチ君だと見る人間は未だに多いですから。 影響力ははかり知れません。 それに帝国の介入の口実にされかねませんし。」

「本当あのじいさん魔法協会のトップにしておくの惜しいね。 こっちで政治家でもやってくれりゃあ、歴史に名を残したかもしれないのに。」

「私には全力で拒否する近衛会長の姿が見えるようですよ。 数年前にお会いしましたが、近衛会長がここまで動いてるとすれば他でもないタカミチ君の為です。 私達だけではないのですよ。 彼を守りたいのは。」

「一人は仕方ないにしてもタカミチだけは守らないとね。 それがアタシ達二十年前に失敗した人間の定めさ。」

そして話は高畑の件に移るが、エレーヌは高畑への影響がほぼないと聞き素直に安堵の表情を見せた。

世界を変える最大のチャンスはやはり二十年前にあったのは彼女達とて十二分に理解してることになる。

アリカ女王が無実の罪で捕らわれた時に見殺しにしたのは彼女達とて同じなのだ。

尤も当時のエレーヌやセドリックは一介の兵士でしかなく出来ることなどない立場だったが。

後はいかに救える人間を増やすかであり、怪情報の出所は無視して内容の精査を急ぎクルト一派から救える人間を切り離すことに全力をあげることになる。


82/100ページ
スキ