二年目の春・7

「あっ、刀子さん。 お帰り!」

「ただいま。」

年間を通しても昼が長いこの時期は夕食の時間になってもまだ外は薄暗くなり始めた頃だった。

店内にはまだ学生の客が何人か残っているものの、刀子が入って来るとおかえりと掛けられる声に刀子は教師としての顔ではなく一人の人間の表情で答える。

始めはタマモで木乃香達などの特別な群れの仲間を家族と考えおかえりと言い出したのが始まりなのだろうが、それが今では他の少女達にも使われるようになり店のお客さんと身内の違いがはっきりするようにもなっていた。

明確には自宅ではないがおかえりと出迎えてくれる声に刀子はホッとするし一日の終わりを実感する瞬間でもある。

それは常連ならば知っている違いではあるが、不思議と文句が出ることはなく刀子が時折生徒にからかわれる程度だ。


「おかえりー!」

「フフフ。 ただいま。」

理由はやはりその中心に居るのがタマモだからというのもあり、嬉しそうに帰ってきた刀子に駆け寄るタマモの姿に文句など言える者は居ない。

横島と少女達だけならばそれは少し異様にも見えるかも知れないが、タマモ一人のおかげで何も違和感がない家族へと変化する。

横島と少女達や刀子の端から見たら理解に苦しむハーレムが、タマモという少女のおかげで和やかな家族に見えるのだから刀子は面白いなと常々感じていた。


「そう言えば今日妙な噂を聞いたわ。 タマモちゃんの画像が幸運を呼ぶとか。 知らない人に声を掛けられても気を付けなきゃだめよ?」

「うん!」

まるで尻尾がブンブンと振られてるような喜びようのタマモに刀子はクスっと笑いながらも、今日学校で生徒達が噂していた話を思いだしタマモに気を付けるように促す。

麻帆良の街では住民意識の高さから見掛けぬ人間が幼子に近寄れば気にかけるくらいはするし、横島も気を付けているだろうからあまり心配はしてないが放っておくと怪しい人とでも一緒に散歩してそうでちょっと気になるらしい。


「ああ、そんな噂ちょっと前からあるよね。」

「発信源は大学部だって聞いたけど?」

「うわぁ。 流石に犯罪じゃない?」

同じ噂はまあ他の少女達にも届いていてタマモはみんなから気を付けているように言われているが、そもそもタマモは本能的に怪しいと感じる相手以外はみんなご近所さんかお友達として知らない人じゃないと考えてるので今一つずれているのだが。

ただまあ女子中高生が騒ぐならともかく、大学生がそんな噂を流して騒いでる姿にちょっと引き気味に少女達はなる。


「大丈夫かしら?」

「問題なかろう。 散歩にはチャチャゼロも一緒だしな。」

流石にタマモの年で一人で散歩は危ないかなと何人か考えるが、アナスタシアがチャチャゼロの存在を口にするとその心配は無用のものだと理解した。

魔王様の四天王の一人なのだからある意味当然だと誰かが口にすると刀子と少女達は爆笑していたが。



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