「そうですか。代表達は離反工作を始めましたか。」

同じ頃クルトの問題を気にかけている高畑に悠久の風のエレーヌ達の様子を近右衛門から聞いていたが、表情はほっとしたようであり不安そうでもありと複雑そうだ。

客観的に見て最善の一手に高畑には思えるが、それが実は何より難しいのはよく理解している。

皮肉なことだが現状でクルトに協力し着いていってるのはクルトの非情な行動力が魔法世界の人間達を救うには必要だと考えてるメンバーがほとんどなのだ。

高畑のようなやり方では根本的に解決にはならないと考える人達でもあり、正直高畑とは価値観が全くと言ってもいいほど合わないというところもあったが。


「流石は悠久の風かの。 残念じゃがワシらには同じことは出来ん。 メガロメセンブリアに信頼されとらんからの。」

「しかし上手くいくでしょうか？」

近右衛門も厳しい状況の中でそれを選んだ悠久の風に感心していたが、問題は何処まで上手くやれるかでクルトならば逆に悠久の風を利用しかねないと高畑は危惧している。


「少し状況が厳しすぎるかもしれん。 土偶羅殿とも相談して追加で情報は送るつもりじゃ。 今回はあくまでも正体不明の怪情報としてじゃがの。 それでも有効に活用するじゃろう。」

ただ悠久の風のやり方では時間も人も足りないのが現状で、クルト一派から引き抜く為に関与の度合いなどを纏めた追加情報をエレーヌに勝手に送りつけるつもりだった。

メガロメセンブリアにも土偶羅の分体が居るので彼を通して郵便物として普通に送りつける大胆な方法だが、ここで高畑や関東魔法協会の人間を動かせば最悪巻き込まれるのでこれが一番無難なのだ。

情報の信憑性は怪しいなんてもんじゃないが、真実である以上は裏取りも早くなるし無いよりはマシだろうと近右衛門と土偶羅は考えている。

もしかすればエレーヌは自分達が送ったと感付くかもしれないが、彼女が気付いたところで大きな問題にはならないだろう。


「しかし、魔法世界を救おうとするのを阻止せねばならんとはエレーヌ殿も心中複雑じゃろうて。 地球と魔法世界の架け橋となり地球と魔法世界が共存する未来をと考えとるのは彼女達も同じじゃからのう。」

「はい。 クルトがもう少し回りを信じて協調することが出来てれば……」

とにかく近右衛門達とすれば悠久の風の動きを見守り可能な限り協力するしかなかった。

嫌な役回りを押し付ける形になったことを近右衛門自身も気にしていて後は関係ないからと放置も出来ない。

皮肉なことだが誰もがその実力を認めるが誰もクルトを助けようとしないし出来ない現状に、高畑は魔法世界の闇の深さを改めて痛感する。

そしてクルトは新時代の為に自ら犠牲になる覚悟があるのだろうかと高畑はそれを本人に直接聞いてみたい気がした。


「長い六月になりそうじゃな」

麻帆良では麻帆良最大のイベントである麻帆良祭があり、魔法世界ではクルトの計画とそれを阻止しようとする悠久の風の動きがある。

近右衛門と高畑は本当に長い六月になりそうだと複雑な心境で日々準備が進む麻帆良の町を眺めていた。