二年目の春・7

「そういえば横島さんがここ借りたのって桜子と一緒に宝くじ買って当たったからなのよね。」

「うん! 偶然同じやつ選んだの。」

「ドラマみたいな展開よね。」

美味しい肉に一同は食が進み次々に胃袋に肉が消えていくが、ふと明日菜は本日の主役の桜子もまた今の自分達の日常の切っ掛けを作った一人なんだと思い出していた。

横島を麻帆良に引き留めたのが木乃香ならばこの店と引き合わせたのは桜子だとも言える。


「元々はビッケがマスターと仲良しになってたんだよ。」

この日は桜子の誕生日ということで桜子の飼い猫のビッケとクッキもタマモにお呼ばれしていて二匹は室内にて横島特製の誕生日ご飯を食べているが、桜子が今まであまり知られていなかった自分と横島を繋いだ功労猫に言及すると少女達の視線が二匹に集まる。


「にゃ~」

「これはあげないっていってるよ」

みんなの視線が感じたからかビッケはまるで何?とでも言いたげに鳴くとタマモがビッケの言いたいことを通訳するも、その内容には少女達ばかりか高畑やアナスタシアまでもが笑ってしまう。

誰も欲しいとは言ってないというかナチュラルに猫とも会話するタマモがまた可愛らしくて笑えてしまうのだ。


「人の縁って改めて考えると不思議ね。」

タマモがビッケに盗らないからと教えるとビッケは安心した様子でクッキと並んでご飯を食べに戻るが、千鶴は改めてここに集まったメンバーとその繋がりや過去を考えて人の縁について考えているらしい。

少女達にしてもクラスメートではあったし他の一般的な学校なんかよりは親しいし仲も良かったが、それでも現状ほど親密だったかと言われるとそれは違う。

一人一人が紡ぎ繋がる縁が大きくなりタマモが言う一つの家族となるまでに成長したのは、当事者からしても不思議な部分があるので外から見た第三者が理解できぬのも当然だった。


「高畑先生?」

「あっ。 いや、ごめんごめん。 人の縁って言うからつい昔を思い出しちゃってね。 赤き翼の人達も別に高い志しや理想があった訳じゃなかったから。 ただみんななんとなく一緒に居るようになり一緒に戦ってただけだったから。 案外似てるかもしれないって思ったらついね。」

そしてこの時、少し懐かしそうに変なタイミングで一人笑ってしまった高畑に今度は注目が集まると高畑は笑ってしまった理由を語るのだが。

高畑の語る等身大の赤き翼の話に少女達は少し驚きながら聞いていた。

何度か高畑から赤き翼の話は聞いたし決して美談や伝記物のような話ではないとは知っていたが、赤き翼もまた自分達のようになんとなく人の縁に導かれて集まっただけだと言われると感慨深いものがある。

無論横島や少女達は決して世界は救わぬだろうし高畑自身も横島や少女達に救わせるつもりなどないが、もしかしたら何かの拍子についでと言わんばかりに世界を救ってしまいそうだと高畑ですら考えてしまう。

周りに希望と夢を抱かせてくれる横島と少女達の姿に高畑は魔法世界の人々の気持ちが少しだけ分かった気もした。


「なかよしだったんだね!」

「仲良しか。 本当にただの仲良しなだけだったのかもしれないな。」

一方高畑の語る赤き翼の人の縁に少女達と違う受け止め方をしたのはタマモだった。

タマモもなんとなく赤き翼のことは理解してるが難しいことはよく分からないので本能的に仲良しだったんだと解釈したが、高畑はそんなシンプルなタマモの答えに案外的を得ているなと少し感心しながらタマモに視線を向ける。

今でもタマモを見ていると時々あの頃のアスナを思い出してしまう高畑は、タマモが大きくなり今の明日菜くらいになった頃を想像して平和な街と環境を守ってやらねばと改めて感じていた。


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