二年目の春・7

「お母さん。 おっはー。」

エヴァの朝は遅い。

九時か十時近くなる頃に起き出したエヴァは茶々丸が作っておいた朝食を茶々丸の妹となり家に居る初音に出して貰うが、相変わらず個性的過ぎるアンドロイドにエヴァは何とも言えない表情をする。


「茶々丸とチャチャゼロはどうした?」

「茶々丸お姉ちゃんは茶道部の部活に行くと学校に行きましたよ。 チャチャゼロお姉ちゃんは魔王がもうすぐ倒せるからとお父さんの家に。」

近くでは鈴江が何故か夏を前に編み物をしてるし今一つ二人を理解出来ないのだが、楽しそうな様子と実害が有るわけではないので放置していた。

しかも最近はチャチャゼロまでが変化していてエヴァの朝が遅いので、一人で一般人に見つからぬようにと横島の家に出掛けるようにもなっている。

横島の家では朝から酒を飲んで映画を見たりテレビゲームをしたりタマモと遊んだりと人のことは言えないほど人生を楽しんでいる。

まあ口では相変わらず平和すぎてつまらないとボヤくし猫とガキとハニワのお守りをしてやるかと言うが。


「お母さん私達も行く!」

「外でお母さんと言うなよ。」

朝食を済ませて一息つくとエヴァはアナスタシアの姿になり店に行くために出掛けようとするも、初音と鈴江が着いてくると言い出すので軽くため息をこぼしつつ準備を待ってやる。

楽しげにお出掛けの準備をする二人を眺めながらアナスタシアはふと自身が人で無くなった頃を珍しく思い出していた。

初めて人を殺めた時を。

そして吸血鬼と言うだけで迫害され何度となく殺されかけた時のことを。


「お待たせ~。」

世界が人が全てが敵だと思った頃もあったが、この街でアナスタシアと名乗るようになってからは全く違う世界が見えるようになっている。

無論アナスタシアはエヴァンジェリンの偽りの姿なのは本人が一番よく理解しているが一方で思うのだ。

もしかすると偽りか真実かなどさほど重要でないのではないかと。


「私達チャチャゼロお姉ちゃんのとこに居るから用が有れば呼んでね。」

「ああ。 夜まで好きにするといい。」

人形が人と変わらぬ意思を持つ時代を目にして、人と吸血鬼と人形の違いや差はいずれ消えるのかもしれないと感じる。


「おう! おはようさん。」

「今日はワシからじゃ!」

店に到着するとアナスタシアの指定席となる一番奥の庭に面した席にはすでに周りに年配男性達が集まっていて騒いでいた。

彼らが自分の正体を知ったらどうなるのかと少し知りたいと思う自分が居ることに、アナスタシアは自分も変わってしまったことを自覚する。


「よかろう。 相手をしてやる。」

年配男性が勝負だと気合いを入れる姿を眺めてアナスタシアは魔王時代とは違うものの、妙に威厳のある笑みで勝負を受けてやることになる。



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