二年目の春・7

同じ頃京都の近衛家では母と親子で会話をする楽しげな木乃香を見て詠春はふと考え込んでいた。

現在の状況は好転したているが正直なところ詠春は未だに木乃香に魔法協会を継がせるのは反対だし、それは西も東も統合された魔法協会でも変わらない。

実は木乃香に魔法の存在を明かしたことで傍にうちの娘をとかうちの息子を置いて欲しいと要望が出始めている。

横島の存在が前回の木乃香の帰省で送り迎えしたことで関西でもはっきりしていて、麻帆良から京都の長距離転移魔法が使える高レベルの術者だと判明したことで横島への批判はなく寧ろ横島を婿に迎えた後の体制を考え始めてる者が居るのだ。

流石に関西の人間も詠春や穂乃香が認めている横島を排除したりして自分の息子を婿にとまで強引なことはしないが、はぐれ術者らしい横島を取り込むか自分に近い立場に引き寄せるくらいはやろうとするのが昔からの関西のやり方だった。

ただ詠春はそんな関西のやり方に内心ではうんざりしている。

詠春の妻の穂乃香とて元は麻帆良生まれ麻帆良育ち故に京都に来てどれほど苦労したかは詠春しか知らないのだ。

まあ横島がそんな連中に御されるとは詠春も全く思ってないが。

とはいえ近衛家の悲願である二つに分かれた魔法協会の統合も魔法使いや魔法関係者の未来も冷たいことを言えば木乃香には関係無く、近右衛門にすら言えないがいっそのこと横島が魔法協会に見切りを付けて木乃香と引き離してくれないかとさえ思う時がある。

西でも東でも魔法協会は魔法協会に自ら入りたい人間が加わり、その人達だけでなんとかすればいいと思ってしまう瞬間があった。



「ふー。」

そして同じ頃高畑は自宅に戻り明日の授業の準備をしつつ少し考え事をしていた。

赤き翼のこと悠久の風のことクルトのこと魔法世界の未来のこと。

どれもすでに高畑に出来ることはあまりなく、やはり何かやろうとすれば望まぬ波風が立つ。

波風を立てたくない高畑と立てたいクルトは本当に真逆の価値観で同じ未来を見てるのだからため息しか出ない。

かつて同じ仲間だった自分達すら相互に理解して一緒にやれないのに、魔法世界にとやかく言う資格などないなと思うと苦笑いしか出なかった。


「師匠。 貴方ならどうしますか?」

諦めろとエレーヌに言われた一言は高畑にとって覚悟していたがやはり衝撃的な一言で、もし自分の立場が師のガトウだったらと考えてしまう。

そもそもガトウは連合の捜査官だったが連合内に浸透していた秘密結社完全なる世界の存在に気付くも、内部からでは捜査は愚か個人的に調べることすら出来ないと悩んでいた時にナギ達と出会った結果、連合に見切りを付けて赤き翼と行動を共にすることになっている。

戦後ガトウには復職の誘いもあったし復職すればそれなりの役職でと言われていたのを目の前で見ていた高畑は知っているが、ガトウは最後まで復職をせずにナギ達と行動を共にして赤き翼の裏方として情報収集などをしていたのだ。


そして諦めろと言われた今だから思うことが高畑にはあった。

ガトウは魔法世界は救おうとしたが祖国であったメガロメセンブリアという国家は救う気がなかったのではないかと。

師であるガトウは何を諦め何を救おうとしたのか。

それとも本当は全てを救おうとしたのか。

諦めたことはあったのか。

高畑は聞いてみたいと思ってしまうが、すべては不可能なことである。

結局高畑に出来るのは近右衛門やエレーヌに横島や刀子など相談できる人達と相談して決断することだけだった。

クルトのように人の話を聞かない人間の末路は決まっていると言っても過言でない故に。



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