二年目の春・7

「ちょっと見ないうちにみんなよく育ったわね。」

「うん! まいにちおみずあげてるもん!」

そして数日が過ぎた六月の第一金曜になると翌日には今月の麻帆良亭の営業をする準備の為に、坂本夫妻が朝から店を訪れていて仕込みをしたり庭の植物の様子を見たりしていた。

特にこの季節は庭の野菜や花がよく育ち、花などは春に花を咲き終えたチューリップを植え替えてたりと実質的にこの庭を熟知している坂本夫妻の妻が指導しているので昨年よりも花や野菜の成育が良くなっている。

基本的に横島は忙しいので主にタマモとさよと、最近園芸にハマっている茶々丸が坂本夫妻の妻の教えを乞うようにして集まり話を聞いている。


「へ~、非常勤講師っすか。」

「何度か断ったんだがな。 月に数回でいいからと頼まれて断り切れなかったよ。」

一方坂本夫妻の夫の方は厨房で横島と木乃香とのどかと一緒に仕込みをしていたが、二学期の九月から高等部調理科において夫婦揃って非常勤の講師をすることにしたと報告していた。

すでに大学部の地元史の研究をしてる教授やサークルと一緒に麻帆良亭の歴史の編纂を始めている坂本夫妻であるが、実は店を閉めた学園での講師を何度か依頼されていたらしく月一の不定期開店する麻帆良亭の営業や春祭りへの参加などもあり再度熱心な依頼をされたらしく根負けしたように受けたらしい。


「なんだかんだと毎週来ることになりそうだ。」

本人は隠居して妻と旅行でもと考えていて昨年は何度か行ったらしいが、昨年の暮れに店を訪れて以来あれよあれよと麻帆良での仕事が増えてる状況に困った表情を見せるも何処か嬉しそうでもあった。

なお坂本夫妻への依頼には企業や団体からの講演依頼やサービス業や飲食業からの再就職の誘いまで引く手数多だったりするが。

横島達に近いところでは雪広グループでも料理アドバイザーとして再就職の誘いをかけていた。

そんな状況に一番困惑したのは夫妻だったが、講演は夫が口下手なので断り再就職も麻帆良亭の不定期営業で十分だという想いから断ったようである。


「凄いですね。」

ただ木乃香とのどかはある意味横島に関わった人の典型的な流れだと坂本夫妻の夫とは違った受けとめ方をしていた。

木乃香達を筆頭に新堂美咲や坂本夫妻など何故か周りが忙しくなる事例がよくある。

元々優秀だし決してそれがおかしなことではないのだが、横島と仕事をすると周りが影響を受けて忙しくなるのは最早偶然にしては同じことが起きすぎていた。


「まあ君達を見ていて私にも伝えるべきことが、まだあると思ったからでもあるんだけど。」

しかし坂本夫妻のように注目を集めるべき人が注目を集めるのは木乃香達から見ても嬉しいものであるし、坂本夫妻の立場から見ても横島や木乃香達のように若い学生に自分達が伝えるべきことがまだまだあると思えるのは自分達の長い人生が社会に役立つのだと思えて嬉しいものでもあるようだった。

初めはほんの些細な変化から始まった坂本夫妻の麻帆良亭復活は麻帆良の過去と未来を繋ぐ重要なきっかけとなることになり、この変化もまた麻帆良の未来を変える一因として歴史の一ページを彩ることになる。


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