二年目の春・7

「あれ? アスナじゃん。 珍しい!」

「あはは、ご無沙汰してます。」

さてこの日の放課後になると明日菜は久々に美術部に顔を出していた。

高畑が顧問を勤めてることで入部した美術部であるが顧問の高畑はほとんど顔を出さないし、新聞配達や横島の店のアルバイトでいつの間にか幽霊部員となっている明日菜が来たことで美術部員達は驚いていたがほとんどは店のお客さんなので店でならよく顔を合わせている。

明日は槍が降るとか雹が降るとかからかわれる明日菜は少し恥ずかしげにしていたが、実際部活に顔を出したのはかなり久しぶりになる。


「どうしたの? お店は?」

「今日はバイトないの。 今年も麻帆良祭で絵を展示するんですよね? 私も一枚描こうかなって。」

「あ、うん。 そうだけど今から間に合う?」

「学校じゃ無理っぽいんで横島さんの家の空き部屋借りて描こうかなって。」

突然美術部に顔を出した明日菜であるが、目的は麻帆良祭で美術部が個展をやるかの確認と自身もそれに絵を出す為にキャンパスを貰いに来たことであった。


「うん。 いいよ。 時間的に厳しいだろうけど頑張って。」

「アスナ働きすぎだからね。」

「いや、半分くらいはバイトじゃない時間なのよ。」

中学最後の麻帆良祭くらいは絵を一枚は完成させたいと意気込む明日菜を美術部のメンバーは少しからかいながらも暖かく迎えている。

実のところ美術部のメンバーは明日菜が美術部に入った理由を大筋で理解していて、それがいつの間にか不要なほど高畑との関係が良好になったことも横島の店に出入りしているメンバーなら知っていることだった。

どういう経緯かは知らないが育ての親である高畑と向き合えたことを喜んでいて、中学最後の麻帆良祭で絵を描きたいと言う明日菜を応援していた。


「何描くの?」

「うーん、タマちゃんでも描こうかなって。 」

「ああ! あのお店にある絵いいよね!」

「私も描きたいな~。 麻帆良祭終わったらタマちゃんモデルになってくれないかしら?」

そんな明日菜であるが中学最後の麻帆良祭に出す絵をほぼ決めていてモデルはタマモを入れて描こうとしている。

特に意識した訳ではないが横島の店に飾られているタマモと世界樹の絵を見ていて自分も描いてみたいと思ったことと、高畑との関係を無意識に取り持ってくれたのがタマモだという感謝の意味もあった。

日頃からタマモはよく楽しげにお絵描きをしていてそれをよく見ている明日菜だけに、絵を描く楽しさを少しだけタマモに教えられたからでもあるが。


「アスナ。 いい顔するようになったね。」

「うん。 一年の頃はなんか無理してたのに。」

「マスターとタマちゃんが麻帆良に来て一番変わったのアスナかもね。」

「あんだけ子供が大嫌いって言ってたのに。」

キャンパスを貰い美術室を後にした明日菜を見送った部員の中で特に同じ三年のメンバーは一年の頃を思い出して少し懐かしさを感じていた。

無理をして強がり気を張っていた明日菜がいつの間にか自然な笑顔をするようになり、大嫌いだと言っていた子供の絵を描きたいと言ったことにこの三年間の成長を感じずにはいられなかった。



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