二年目の春・7

「へ~、なかなか良さげな店ね。」

同じ頃刀子はシャークティと一緒に最近麻帆良に出来たイタリアンの店に来ていた。

横島達からは刀子なら一緒でもいいんじゃないかと誘われもしたがこの夜は横島の店が3ーAの貸し切りということで、たまには別の店に行こうとシャークティを誘い来ている。


「味もまあまあね。」

「そりゃカレの店と比べたらほとんどの店がまあまあになるわよ。」

職業柄どうしても麻帆良では人目が気になるのでちょうど空いていた個室で食事を始める二人であるが、料理をまあまあ美味しいと評価した刀子をシャークティは少しからかうような口調で突っ込む。

刀子としては意識して比べたつもりはないようだが、すでに日常の一部となった横島の味と知らず知らずのうちに比べてしまったと言うのが本音だろう。

実際味は悪くないし店の雰囲気もいいので大学生や大人が好む店として流行りそうな店である。


「そう言えばお嬢様の方はどうなの? 綾瀬さんとか宮崎さんは図書館島の魔法協会専用フロアに出入りしてて熱心だって聞くけど。 」

「お嬢様は今のところ魔法の比重はあまり高くないわ。 料理の方がいいみたいだし。 そもそも魔法の印象が必ずしも良くないから。 ただ並の見習い程度には練習してるわよ。」

「お嬢様は家族の立場が複雑だものね。」

個室ということだが一応人払いの魔法を使いつつ料理が来るとお酒と料理を肴に何気ない話をしていく刀子とシャークティだが、シャークティは相変わらず刀子の現状を心配してもいて難しい立場なのではと気にかけていた。

そもそも教え子の木乃香が難しい立場であることで、刀子もまた最近話題の東西協力の板挟みなんかになってるのではと心配しているらしい。


「これでもマシになったわ。 結婚した時とか離婚したの頃と比べればね。」

今でこそ刀子は日常生活を楽しむ余裕もあるが、元々一年前には義理で加わっていた魔法協会に不満もいろいろあったことをシャークティは知っている。

しかし刀子の立場が変化した原因である横島の秘密を知らないだけに、また貧乏クジを引かされて苦労してるのではと考えてるようだ。


「貴女の結婚も今ごろだったら違ったのにね。」

「どのみち苦労したと思うわよ。 それにあの時があるから今がある。 戻りたいともやり直したいとも思わないわ。 今は楽しいわよ。 いろいろ厄介ごともあるけど。」

シャークティは刀子の結婚から離婚とその後までの苦労を知っているだけに、離婚から数年で東西協力が始まったことに少し皮肉なものを感じているらしいが刀子自身はやり直したいとは思ってない。

かつてより難しい立場であることに変わりはないが、横島と少女達との家族と呼ぶような深い関係が刀子を守っていることも確かなのだ。

元夫も決して悪い人ではなかったし嫌いでもないが、生涯共に歩むべき覚悟がお互いにあったかと言われるとあったとは言えない。


「魔法協会は変わらなきゃいけない時期だと思うわ。 東も西も。 多分変えるなら今しかないし、二度と私やお嬢様のような人を出さない為にも私も出来ることはしたいって思うの。」

そして刀子は多少なりとも自分にも出来ることがある立場になったことで、故郷と麻帆良の仲間達に自分や木乃香のような想いはさせたくない考えるようにもなっていた。

今しかないのだ。

近右衛門が居て詠春が居て木乃香や雪広家に那波家の人々に横島が居る今がラストチャンスなのだと刀子は考えている。

横島に見捨てられつつある魔法世界の二の舞にはしてはならないと思うのは、刀子自身にそれだけかつてより余裕が生まれたからでもあるだろうし世界を知り成長したからかもしれない。


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