麻帆良祭への道

その日横島が店を開けたのは日が暮れる頃だった

正直あまり客が来る時間ではないのだが、麻帆良祭のデザートを試作するのに厨房を使うのでついでに開けただけだったりする


「いらっしゃい、疲れてるみたいですけど大丈夫ですか?」

店を開けてしばらくは近所の住人が何人か来ただけだったが、夜九時半を過ぎた頃に疲れた様子の刀子が訪れていた


「ちょっとね…… 今年は例年に増して忙しくって」

あまりの疲れた様子に心配そうな横島だったが、刀子もまた素直に忙しくて疲れたと言い切る

学校や外では疲れた様子など絶対に見せない刀子だが、やはり彼女も人の子であり弱音を吐きたくなる時がある

そんな時刀子は何故か横島の店を訪れてしまう

ちなみに刀子が例年より忙しい理由は、ネギの問題の影響により警備を強化した為であった

まあ忙しくなったのは刀子のみならず魔法協会員全般なのだが、高畑や刀子のような使える人員が一番割を食って忙しくなっているのだ


「そうっすか~ ちょっと待ってて下さい」

疲れたと告げる刀子の注文も聞かずに厨房に引っ込んでしまう横島だが、割とよくあることなだけに刀子も気にしてない

ようやくホッと一息ついた刀子はため息混じりに麻帆良祭終了までの残りの日数を数えていく


(いくら割り増し手当がつくと言っても流石に嫌になるわね)

ただ忙しいだけなら刀子も弱音など吐かないのだろうが、刀子が今回の麻帆良祭期間中臨時に関わっている裏の仕事がスパイや工作員への監視や対応なことが問題だった

それは本当に地味で神経を使う仕事であり、正直ストレスが溜まる仕事である

はっきり言うと刀子としては高畑のように力押しの仕事の方が楽なのだが、流石に女性の刀子にチンピラや荒くれ者の対応を堂々とさせる訳にはいかなかったのだ


「お待たせしました。 ハーブティーです。 とりあえずそれを飲んで待ってて下さい」

刀子が僅かに考え込んでる間に横島はハーブティーを持参するが、そのハーブティーからは僅かに魔法的な力を感じるものだった


(かなり疲れてるな)

横島が刀子に出したハーブティーは正真正銘魔法のハーブティーである

魔法によりハーブティーの効果を最大限に引き出す魔鈴の得意なメニューの一つだった
 
正直あまり魔法の力は使いたくないのだが、刀子が通常の料理では改善しないほど疲れとストレスを溜めていたことで横島は魔法のハーブティーを出していた

面倒事になる可能性も無くはないが、疲れた刀子をほっとけなかったのだ


「これは……」

「裏メニューって言うか、秘密のメニューなんです。 出来れば他言無用でお願いします」

ハーブティーから感じる魔法の力に刀子はすぐに気付き驚きの表情を見せるが、いつもと違い真剣な表情で秘密にして欲しいと言われるとすぐに頷いてしまう

刀子自身は横島が裏に関わる人間なのは以前から気付いていたし、横島もまた刀子が裏に関わるのを気付いていたと刀子も以前から自覚している

元々横島に関しては近右衛門から問題ないと言われてるだけに、刀子としては必要以上の詮索はする気はなかった

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