麻帆良祭への道

一方街がオレンジ色の鮮やかな夕焼けに彩られる頃、横島と木乃香はコブラで大学部の地区を後にしていた

麻帆良祭の準備で賑やかな麻帆良の街でもやはりコブラは目立っており、時折注目を集めている

そんな中で木乃香はぼんやりと運転する横島を見つめていたが、ふとした瞬間に横島がまるで別の女性のように見えた気がした


(今のは誰やろ)

目の錯覚だろうと考える木乃香だが、一瞬だけオレンジ色の髪の長い女性の姿が見えたのだ

その女性はとても綺麗なのだがどこか寂しそうに見える


「どうかしたんか?」

不思議そうに首を傾げる木乃香に横島は言葉をかけるが、木乃香はなんでもないと返すのみだった

流石に一瞬だけ見えた幻影を言うのはどうなのだと思ったらしい

その幻影の主がこの車の本来の持ち主だと木乃香が知るよしもなかった



「なんだありゃ?」

そのまま車を走らせる横島だったが、大学部を抜けた辺りで巨大なぬいぐるみのような装飾をした車が見えていた

正確にはトラックにファンシーな飾り付けをしている山車のような物である


「あれはパレードに運行するものなんよ。 期間中一日三回のパレードが行われるんや」

「うーん夏祭りの山車や神輿が現代風になるとああなるんだろうな……」

横島がまた変わったイベントでもあるのかと気になった物はパレードの山車らしい

日本各地にある祭には様々な山車が出るが、中でも麻帆良の山車は特別ファンシーな山車だった


「綺麗なお姉さんとかもいっぱい出るんよ」

「なに!? それは是非見に行かねば……」

「ウチが案内したるわ」

「そっか、じゃあ楽しみにしてるよ」

山車からパレードの話題になり綺麗どころが揃うと聞いた横島は一気にテンションが上がるが、木乃香はそんな横島を見て普通に案内をすると言い出す

この時自然に案内をすると言い出した木乃香だが、特別な意味は全くない

春の桜まつりも一緒に行ったし、少し前に横島が麻帆良祭期間中は結構暇だと言っていたことから誘っただけである

麻帆良祭は麻帆良の男女が恋人が欲しくなる季節の一つなのだが、木乃香の場合は見知らぬ男性と行くよりは横島と麻帆良祭を回りたかっただけだった

この辺りの木乃香の行動は実は今の横島にピッタリな方法なのだが、あいにく木乃香本人は気付いてない


今の横島は女の子と仲良くはなりたいが、かといって恋人という形を求めて来られてもなかなか受け入れられない事情がある

従って木乃香のように下手に形を意識しない方が横島に近付けると言えよう

あからさまに誘って来るような女の子はかわすが、木乃香を手元に置いてる理由はその辺りにもあるのかもしれない

まあ木乃香は木乃香で横島が悪い女に騙されて女性に対して臆病になってると勘違いしてるため、横島に優しくしようとは思っているが……

結果的にだが無意識さと勘違いなどの微妙なバランスの上で、横島と木乃香は親密になっていく



69/100ページ
スキ