二年目の春・7

「それにしても混んでるですね。」

「外野はホームラン待ちも多いからな。 松岡が通算500号ホームランに王手をだからそろそろ出そうなんだよ。」

球場は内外野共に満員で開始して間もなくには満員御礼のアナウンスが場内には流れていた。

少女達は野球そのものよりも雰囲気を楽しんでるようであるが、ふと夕映は周りにグローブを持った人達が多いことに気付き近くの大学生に訳を訪ねると有名選手の通算500号ホームラン待ちだと聞き興味深げにグラウンドに目を向ける。


「へー、そうなんだ。 案外こっちに飛んでくるかもよ。 麻帆良一のラッキー娘が居るからね。」

「うん? ホームラン来い! ホームラン来い!」

そんなホームランの話にふと美砂は隣で料理をパクついてる桜子が居るからホームランが来るかもと言い出すと、桜子もノリノリでホームランを呼び込むように呟き招く仕草を始めた。


「アハハ、それで来たらたいしたもんだ……って来たーー!!」

まさかそんな簡単にホームランが来るわけないと笑う大学生達だったが、バッターボックスにはちょうど噂の松岡選手が入ったのを見た少女達の何人かは本当に来たりしてとちょっと不安と期待が入り交じった表情をする。


「ちょっ!? マジかよ!!」

「グローブグローブ! 当たったら怪我するって!」

「こらっ! 押すなっ!」

それが高々と舞い上がった打球は本当に真っ直ぐに桜子の方に飛んでくると辺りは軽いパニックになる。

当然周りからは何人もの観客が集まり少女達や横島は揉みくちゃにされるような体制になりみんながホームランボールを取ろうとするのだが。


「俺のビールが……。」

なんとボールは多くの人のグローブや手をすり抜けてしまい、なにもしてないはずの横島のビールが入った紙コップにスッポリと入ってしまう。

幸いビールはほとんど入ってないので惨事にはならなかったがあまりの展開に外野席は爆笑に包まれた。


「やったね!」

見事にホームランを呼び込んだ桜子はブイサインでどや顔をしていて、タマモは飛んできた方向と紙コップの中のボールを交互に見ては目を白黒させている。

他の少女達は横島が密かに狙ったのか気になったが空いたスペースに落ちてきたようにしか見えない。

なお球場内のオーロラビジョンにもちょうどよく紙コップに入った姿がアップで映されていて、驚く横島とブイサインにどや顔の桜子に目を白黒させるタマモの姿が映りこの日放送されたテレビ中継により全国に流れてしまうことになった。

もちろん周りの少女達や大学生が爆笑してる姿も一緒に流れてしまい、明日のスポーツ紙の一面には松岡のホームランがビールの紙コップにホールインワンと書かれることになる。

横島と少女達はこの日全国デビューを果してしまった。


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