二年目の春・7

さてこの日の夕食は高杉教授も一緒になり賑やかな夕食となったが、そんな夕食も終わり高杉や少女達が帰りそろそろ店を閉めようとした頃に高畑がやってくる。

横島は他に客も居ないしと店を閉めてから高畑に夕食を提供するも、高畑はいつになく表情が冴えない。


「人が分かり合うというのは難しいね。 お互いに手の内を知り尽くした僕とクルトですら分かり合えてない。 魔法世界のこととやかく言えないよな。」

夕食と共に一人晩酌をしつつ何を語るわけでもなくしばらく無言だった高畑だが、後片付けなどが終わり横島が高畑に付き合うように酒を飲み始めると重い口を開く。

答えはすでに出ているし、それを変える気もないのだろうが割りきれない思いは当然あるのだろう。


「高畑先生が本気で世界と向き合うなら力を貸しますよ。」

最近タマモが周りを家族だと言うのが浸透したのか、少女達ばかりか高畑ですら横島や少女達のことを家族だとハワイで超鈴音に対して語ったのを横島は知っている。

もしも高畑が全てを魔法世界の未来に賭けるならば、横島も本気で協力するくらいの思いはある。


「横島君にそう言われると気持ちが揺らぎそうだよ。 でも今はその時じゃない。 そうだろ?」

「まあ、そうでしょうね。」

それは高畑にとって魔法世界を救える最大の切り札を得たに等しいほどのものだったが、高畑は少し驚きの表情を見せながらも残念そうに今はその時ではないと口にした。

横島にしろ近右衛門にしろ高畑が本気になれば少なからず力を貸す人間は居るし、やり方次第では魔法世界を救うのも難しくないのは重々理解している。

しかし本来立ち上がらねばならない人達が何もしてない現状で、無関係な横島や近右衛門を巻き込むことは高畑には出来なかった。

少なくともクルトを止めたいのは高畑の個人の思いであり魔法世界のためではない。


「思えばかつての赤き翼はナギも若かった。 子供だと言ってもいい。 だからこそ後先考えずに動けた。 けど結果は現状だからね。 ただ助けと英雄を待つばかりの世界になってしまった。 難しいもんだね。」

この十年秘密結社完全なる世界と戦い続け魔法世界を守ってきたと言っても過言ではない高畑やクルトであるが、以前から指摘している通りそれは必ずしもいい面ばかりではなく問題も着実に残している。

ここで高畑が動けば多くの人を巻き込み魔法世界を更に混乱させるだけになる可能性も十分あった。


「クルトのやり方は問題だけど一方で思うんだよ。 そろそろ赤き翼の作られた英雄像は壊すべきだし、クルトの行動はそういう意味では魔法世界の人達の目を醒まさせる一因になるかもしれないってね。」

高畑としては心情としてクルトを止めたいと思いつつも、今回はいつまでも夢を見てるばかりの魔法世界の目を醒まさせることになって欲しいと冷静に考える部分もある。

最早赤き翼に名声や英雄像は必要ないと心から思う高畑は、盟友であるクルトの行動も結果的に世界の為になるのではと複雑な心境を横島に吐露していた。



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