二年目の春・6

「あやかちゃん大丈夫か?」

さてこの日の放課後になると横島はあやかと共に前回都合がつかなかった納涼祭のスポンサー巡りをしていた。

一応納涼祭に商店街が加わることの説明だが立場はそれぞれあれど同じ町の人間であり反対までする者は居なく形式的なものであり、ほとんど横島の顔見せと雑談で終わりである。


「ええ。 大丈夫ですわ。 ただ次まで少し時間がありますから休みたいですわね。」

ただ何件か回ると行く先行く先で出された飲み物を全て飲んでいるせいか少し水分を取りすぎていて、横島とあやかは次の約束の時間まで少し休憩を取ることにした。


「全部飲まんでも良かったんじゃないか?」

「出された物を残して不満だと取られてはいけませんから。」

どこも気を使って飲み物なんかを出してくれるが、何件か回ると流石に飲みたいと思わなくなるもののあやかは全て飲み干している。

そのせいで少し水腹のようになっていて横島も心配するがあやかにはあやかの立場があり、こうした訪問先では飲み物は飲み干すようにしているようだった。

一般的な営業なんかでは訪問先で出された飲み物を飲むべきか飲まざるべきかで議論になることもあるが、あやかの場合はそもそも営業ではないし立場も上になるのでこういう場合は飲むようにしつけをされているらしい。


「やっぱ金持ちも楽じゃないってか。」

「横島さんも気を使ってますが先方もかなり気を使ってるんですわ。 私が飲まなかったり残すと不安やら心配する方も居ますから。」

たかが飲み物されど飲み物ではないが、財閥の娘も決して楽で何をしてもいいという訳ではなく知られざる苦労はいろいろあるようだった。

気を使っているように見せないで気を使うあやかと違い、相手にも分かるように気を使う横島はある意味未熟と言える。

しかしまあ生まれ育った環境もあるし根が庶民の横島としては気を使っているように見せないと怖いというのも無いわけではないのだろうが。


「俺の知ってる金持ちってもっと自由にしてたけどなぁ。」

「人それぞれ家によってもそれぞれやり方はありますわ。 我が家ではそうしてるというだけです。」

パッと見苦労してるようには見えぬあやかの苦労に横島はかつての世界の六道冥子を思い出して全く違うなとしみじみと感じるものの、あやかは異なる価値観や考え方があるのだと言いつつ横島の知る金持ちとやらに興味を抱く。

自分の知らない横島を取り巻く人々がどんな人達だったのか知りたいと思ってしまうらしい。

いつの間にか当たり前のように近くに居る横島という存在が居なくなった後に残された人々は、今頃何を思いどうしているのだろうと考えると少し胸が苦しくなる気がする。

横島もまた決して帰りたいとは言わないが本心ではどう思ってるのか、たった一人で見知らぬ世界に来なければならなかった事情と共に今も謎だった。

いつの日か話してくれるかと期待しつつ休憩を終えたあやかと横島は次の訪問先へと向かうことになる。


94/100ページ
スキ