二年目の春・6

翌朝は清々しい新緑の朝だったが、朝一で土偶羅からもたらされたクルト・ゲーデルの最新情報に近右衛門は深いため息を溢していた。

クルトが魔法公開とクーデターを計画していたのは少し前から情報を逐一得ていたが、本当に計画を実行に向けて動き出したと知らされて何故誰も止めないのだとクルトもその仲間もどうかしているのかと頭を疑いたくなる。

随分と自分達に都合がいい解釈での身勝手な計画に地球の人々どころか魔法世界の人々のことさえきちんと見ているとは思えない。


「これが歴史の揺り戻しというやつか。」

超鈴音がやろうとしていた計画に似て非なる計画をクルトがやろうとしている事実に、近右衛門はようやく超鈴音が落ち着き始めたのにと考えると何度目か分からぬため息が出てしまう。


「そうとも言えるがそうでないとも言える。 一言で言い切ることが出来ぬ様々な選択と結果の積み重ねだからな。」

報告を持参したのは土偶羅の分体として芦コーポレーションを経営する芦優太郎だったが、近右衛門は直感的に以前横島が話していた歴史の揺り戻しだとみたが芦優太郎はそれほど単純ではないと口にした。

結果だけみればそうとも言えるものの、歴史とはそれほど単純ではなく全ての生きとし生ける者達の積み重ねの結果でもある。

クルトの計画と現状は魔法世界の業や闇にクルト自身の失政が招いた結果でもあり、自業自得な面も無いわけではない。


「流石に放置出来んのう。 とはいえ矢面に立つのも悪手か。」

近右衛門としてはいい加減にしてほしいと心底思うが驚きはなく、クルトならばいつか何かをやらかすだろうと若干冷めた様子で見ていた部分もあった。

魔法世界でならば何をしても関わる気はなかったが、地球側で魔法の公開するとなるとそうも言ってられない。

実は近右衛門は少し前に魔法協会内にて世界に魔法が公開された場合の対応と対策を様々な状況を想定して検討してみるようにと指示を出していて、魔法協会内でも魔法が公開された場合に世界や日本に与える影響の研究などから真剣に研究と検討が始まっている。

しかしあくまでも有事の際の対応マニュアルのようにリアルな事態が迫ってる訳ではない検討なので成果などまだ出てなく、第一段の中間報告でさえ今年中に出ればいいというレベルでまだ使えるものではない。

それに雪広家と那波家と近衛家で密かに進めている無人惑星の活用を含めた魔法世界の崩壊やそれと連鎖する可能性がある魔法の公開や魔法協会の危機の対策も具体的な物としてはまだまだ形にはなってないし、人材育成と技術者確保の為の麻帆良総研なんて設立したばかりでようやく始動したばかりなのだ。

はっきり言えば横島と協力して得られた情報を元に半年かけてようやく動き出したばかりの近右衛門達としては、この段階での魔法公開は是が非でも避けねばならなかった。


「分かってることだろうが、一つ一つ解決していくしかないな。 それが未来を切り開く唯一の方法だ。」

超鈴音の一件から約一月が過ぎ一難去ってまた一難というところだが、芦優太郎は焦りにも似た感情が見える近右衛門に分かってることだろうと前置きした上で唯一の方法を語るしか今は出来ない。

アシュタロスとて幾千の年を重ねてようやく世界に挑む準備を整えたのだ。

いかに遺産があるとはいえ近右衛門や横島とて出来るのは同じく時を重ねながら一つ一つ解決していくしかない。

近右衛門はそんな芦優太郎の言葉にまた雪広家と那波家と共に対策を考えねばと集まれる日を調整するしかなかった。

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