麻帆良祭への道

「ねえ、夏美ちゃん。 マホラカフェのマスターのことどう思う?」

「どうって面白い人かな?」

同じ頃、女子寮の一室では千鶴が横島の話題を夏美に振っていた

何か言いたげな千鶴だが、夏美は分からないらしく首を傾げるばかりだ


「何か他の人にはないモノを感じるのよね……」

千鶴本人も何か確証がある訳ではないが、何か横島は他人と違うモノがあるのではと感じている

その漠然とした感覚が何なのか考えるのだが、分かるはずはない


「そういえば美人と駆け落ちしたのに、騙されたらしいって噂を誰か言ってた気がする」

千鶴の言葉に夏美は横島に関する噂を思い出すが、その内容は木乃香達が話した内容から更に変わっている

実は実家は金持ちなのだが、美人に騙されて帰れなくなったとの新たな根も葉も無い噂が広がっていたのだ

他の噂は有名な資産家の隠し子で継母にイジメられて育ったなど、どこかで聞いたことがあるような噂も流れている

横島は本人はそのつど噂を否定するのだが、それでも噂は消えることはなかった


「そうなの? 私が聞いた話とは微妙に違うわね」

夏美の話に千鶴は少し考え出すが、結局のところいろいろな噂から横島の真実を導き出すのは名探偵でも不可能である


「ちず姉が男の人の話するの珍しいね」

「別に男性として興味がある訳じゃないわ。 ただあの笑顔の裏に何があるのか、ちょっと気になるだけ」

モテる割に色恋沙汰の話が全くなかった千鶴がする男の話に夏美は驚くが、千鶴は異性として興味がある訳ではないと即座に否定していた

ただ何か気になる雰囲気を持つ相手だとは感じてるらしい

それは本来人間が持つはずの負の側面が、あまりにも横島には見えないからなのだろう

何か無理をして笑っている子供のように見える瞬間が僅かにあったのだ


「考え過ぎじゃないの? そんなに訳ありな人には見えないよ」

「そうかもしれないわね」

考え過ぎではと言う夏美に千鶴は同意するも、やはり何か釈然としないものがあるようだった

それほど気になるのかと言われると気にならないのだが、たまに思い出すと少し気になるらしい



「いつもながら凄まじい内容ですね」

「本当にこんな本を麻帆良祭で売るの?」

一方夕映とのどかは寮の自室で、ハルナが麻帆良祭で売り出す予定の同人誌の手伝いをしていた

しかし一般向けじゃないハルナの同人誌に、二人は微妙な表情を浮かべている


「あたり前でしょ! この機会に売らずにいつ売るのよ!!」

夕映とのどかとは対照的に、ハルナはやる気満々の表情で気合いが入っていた

実はハルナは麻帆良の非公式サークルである同人誌サークルに入っており、彼らと一緒に密かに販売会をしようと企んでいる

本の内容的に公式イベントには出来ない為、非公式で販売会をする予定らしい


「去年は販売会が30分で中止にさせられたと聞きましたが?」

「今年は絶対ばれないように密かにかつ大々的にやるから大丈夫!!」

去年も似たような販売会を企んだ彼女達だが、運がよかったのか悪かったのか運営に見つかり即座に中止にされていた

しかし彼女達は今年も懲りずにやるつもりもらしい


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