二年目の春・6

さてテスト勉強から解放された横島の店では常連の女子中高生が集まっていたが、中には問題用紙に答えを書き込み自己採点してる者なんかもいる。

しかしまあ大半の少女達はテストを終えた解放感から普段よりテンションが高く騒いでいるだけだが。


「何作ってるんです?」

「鳥のひつまぶしだ。 麻帆良祭のメニューに出来んかと思ってさ。」

少女達がテスト勉強から解放されると横島も同じくテスト勉強を教えることから解放されており、時折フロアに呼ばれてはあれこれと話すことはあるものの先程からふと思い付いた料理を試作していた。


「ひつまぶし? ああ、あのうなぎのやつね。」

「うなぎは焼くの大変だし麻帆良祭には向かないけど鳥なら行けるだろ? 実際にやるなら簡素化する必要もあるが一つの料理で食べ方変えるだけで二度三度楽しめるってコンセプトがいいなって思ってな。」

この日バイトの明日菜は厨房で横島の手伝いをしていたが、突然料理の試作を始めた横島を興味津々な様子で見ている。

よくあることなだけに驚きはないが何を作るかは本当に分からないので楽しみであった。


「あれ確かに麻帆良だと見ないですね。」

「だろ? 別にひつまぶしにこだわらんでもどんぶり物でもイケると思うしな。 要は味を変える薬味とかダシとかスープをかけて食べれるようにする料理って考えるといろいろやれそうだからさ。」

現状では揚げパンが有力な候補であるが流石にメインにするには少し物足りなく、出来ればメインにはもっとインパクトがある料理かスイーツが欲しい。

ただ当初考えていた斬新であまり馴染みのない料理よりは、誰もが味を想像できる料理やお祭りに相応しい物の方がいいのではという方向に話が進んでいたために横島もそちらで考えたのだ。


「あー、なるほど。 でもなんかまたご当地メニューみたいな料理なんですね。」

「そこは特別意識したつもりはないんだかがな。 気楽に食える料理ってなるとファーストフードにめん類かどんぶり物がだいたいほとんどだろ。 揚げパンがファーストフードだとすると後はめん類かどんぶり物だからなぁ。」

横島が試作した鳥のひつまぶしは鳥を焼いたものをご飯に乗せて、途中から薬味と市販の鶏ガラスープで簡単に作ったダシをかけるだけの物であったがなかなか美味しい割に見てる分には作るのも簡単そうであった。

これに関してはメインの食材や味付けにダシはまだまだ改良の余地はあるものの、食べ方が幾つかあり二度三度と味を変えられるとのコンセプトはいいと明日菜にも評判は上々である。

なんというか学園祭の出し物のメニューにするには勿体ないのではと明日菜なんかは思うが、昨年の麻帆良カレーも麻帆良祭の時には具材を好きなように選べたことも人気の秘訣だったのでひつまぶし作戦は意外とありではと思っていた。


「プレッシャーですよね。」

「本当だよ。 全く、うちは喫茶店なのに過大な期待されてもさぁ。」

なお明日菜は去年のことを思い出したのか悩む様子の横島にプレッシャーだろうと声をかけると、横島は素直にそれを認めため息をつく。

基本的に気分屋である横島は責任や期待されるのを必ずしも喜ばなく、あまり期待しすぎると横島の自由奔放な良さを潰すのではと少し気にしている。


「みんなで楽しめればいいじゃないですか。」

「そうだな。」

ただ明日菜自身はどんな結果になろうと構わないと考えていて、中学最後の麻帆良祭をみんなで楽しめればそれでいいと考えていた。

そんな明日菜の言葉に横島は少しホッとしたのか表情を緩めると麻帆良祭のメニューについて再び考え始めることになる。


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