二年目の春・6

「あら近衛さんいらっしゃい。 ちょうどいいとこに来たわ。 時間ある? ちょっと新作味見してみない?」

一学期の中間テストは主要五教科のみなのでテストはこの日一日で終わり学生達はテストから解放されいつもの日々に戻っていたが、アルバイトが休みな木乃香は久しぶりに新堂美咲の店を訪れていた。


「いいんですか?」

「もちろんよ。 さあ奥に入って。」

昨年の体育祭やクリスマスパーティ以降も新堂と横島達は交流があり、特に木乃香は時々新堂の店に来てはスイーツを買っている。

日頃から横島の店でも毎日見るし自身も作るスイーツだが新堂のスイーツには横島にはない良さもあり、木乃香自身も好きなことと勉強も兼ねて購入して食べていた。

何だかんだと結構収入がある木乃香の数少ない贅沢とも言えて、五個か六個ほど購入して横島達と一緒にちょっとずつ食べるのを時々している。


「自分のペースで頑張ってるみたいね。 大学部の知り合いが麻帆良祭のイベントのゲストを断られたって笑ってたわ。」

「すいません。 その手のお話たくさん頂いたんやけど全部断ったんです。」

「それでいいと思うわ。 私にも来るけど高橋さんと相談して今年は全部断ってるもの。 一つ受けるとあちこちから余計に頼まれるから。 全部断ると逆に角がたたないわ。」

この日はちょうど新堂の休憩時間だったこともあり六月の麻帆良祭に発売しようとした新作の試作品を味見させてもらえることになり、店の奥の休憩室でお茶といっしょに食べながら世間話程度の雑談をしていくが話題は互いの近況から麻帆良祭のことになっていた。

どうやら新堂もまた麻帆良祭にはたくさんのサークルやイベントからゲストや協力の依頼が来たらしいが、すでに大学を卒業して社会人となったという事もあって店の仕事に専念するらしい。

店の運営自体は今も彼女とチーフパティシエの高橋との二人三脚のようで、天才と言われた新堂でもやはり店の運営は一筋縄ではいかないらしい。

尤も現状では昨年のクリスマスパーティで広がった人脈や顧客の影響もあり順調そのもので特に問題はないらしいが、言い換えれば失敗の経験もなく苦労を知らぬ新堂ではやはり分からぬこともあり苦労人の高橋を手放せないのが実情のようだ。


「まだ中学生なんだからあまり周りに気を使う必要はないわ。 好きなことをしたらいいと思うわよ。」

一方の木乃香は昨年の体育祭以降は新堂の後継者のように見られたり比べられたりとしているが、クリスマス以降は店のバイト以外はほとんどしてないにも関わらず人気が落ちてない。

人の噂も七十五日などというが七十五日を過ぎても多少落ち着いた程度で少し困惑してる部分もある。

ある意味木乃香の立場を一番理解する新堂は木乃香のよき理解者として気にかけてくれていて、木乃香も悩んでるというほどではないが少し気になるで相談というか話を聞いてもらったりしていた。

まあ世間話程度のことではあるがそれでも木乃香にとって新堂は目標とも憧れとも思う先輩なだけに、話を聞いてもらうだけですっきりするのが本音らしい。

この日も二人はしばしおしゃべりをした後に木乃香はスイーツを買って帰ることになる。

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