二年目の春・6

「まさか、第三皇女殿下がのう。」

「はい、テオドラ様が是非麻帆良を訪れたいと仰せでして。 こちらとしては非公式での訪問で構わないので検討願えぬでしょうか。」

一方この日近右衛門の元には新たな案件が舞い込んでいた。

麻帆良に滞在するヘラス帝国大使から今年の秋を目処にヘラス帝国第三皇女テオドラの麻帆良への訪問を頼まれたのだ。


「今年で大戦終結から二十年。 そろそろ頃合いではあるか。」

赤き翼の活躍による魔法世界の大戦が終結して今年でちょうど二十年になることもあり、魔法世界では関連の式典やイベントが目白押しである。

ヘラス帝国ではこれを期に今まで認めて来なかった王家の旧世界訪問を実現したいようで、その第一段として大戦で活躍したテオドラの麻帆良訪問が持ち上がってるらしい。


「はい、殿下は是非近衛詠春名誉伯爵殿にもお会いしたいと。」

「大使殿は相変わらず耳が早いのう。」

「連合と傘下の組織の動きも少しキナ臭い動きがあり、加えて二十年前の燻りが未だある現状では帝国としても是非友好団体との交流を深めないとと考えております。」

事の始まりが何処かは少し議論の余地があるがフェイト・アーウェルンクスの発見やメガロメセンブリアでのクルト一派の騒動や暗躍などは当然ヘラス帝国も掴んでいて、自陣営の結束と更なる友好を深める為に外交攻勢に出るというのが実情だろう。

ちなみに詠春達赤き翼は二十年の一件でヘラス帝国では名誉爵位を授与されていて詠春が名誉伯爵で高畑は名誉男爵の爵位を持っている。

ただあくまでも名誉爵位なので実利は多少の年金のみであるがこれは二十年前の大戦の戦後処理の一貫で与えられたものであり、赤き翼の面々はこの手の名誉の付く爵位や称号に勲章などを魔法世界のあちこちから山ほど貰っていて当の本人達もほとんど覚えてないものばかりだが。

ヘラス帝国の爵位に関しては元々敵側だった赤き翼の活躍による終戦となり戦後の連合側との駆け引きや大戦の責任論など様々な政治的な思惑の結果、勝手に名誉爵位を与えただけであったが皮肉なことに麻帆良がヘラス帝国と交流を持つと近右衛門は名誉伯爵の義父として相応の扱いを受けるなど意外な実利が生まれている。

それとヘラス帝国がこの時期にテオドラの訪問を言い出したのは関東と関西の和解の情報を掴んでいたからという事情もあり、今ならば詠春が近右衛門と共にテオドラとの面会が叶うという読みもあった。

関西を継いで以降魔法世界に姿を表さぬ詠春がテオドラの訪問に際し姿を表したとなると魔法世界へのインパクトは大きい。


「そうじゃのう。 ワシの一存ではこの場で確かな返事は出来ぬがまず反対する者はおらんじゃろう。 具体的な話は今後になろうが返事は早く出来るじゃろう。」

「よろしくお願いいたします。」

関西との和解を表沙汰にする時期としては少し早いかと一瞬悩む近右衛門であったが、ヘラス帝国の後ろ楯は関東魔法協会にとって無くてはならぬものであり断りにくい。

それと秘密結社完全なる世界の方はあまり心配してないが、クルト・ゲーデルの動きには頭を痛めているのでこの辺りで友好を深めるというのは決して悪いことではない。

結果として魔法協会として前向きに検討することを約束していた。


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