二年目の春・6

「本当これは育てるの簡単なんだよな。」

みんなで和気あいあいと収穫した二十日大根であるがタマモが坂本夫妻にあげたいと言い出したので幾らか宅配便で送ることにして、残りは夕食にでも食べようと葉の部分を浅漬けにして大根の方はサラダにでもすることにした。

開店前の横島は一日でも一番忙しい時間でありいつものようにスイーツや朝の定食を作り開店準備をしていく。


「いっそ、収穫から体験出来るイベント……は無理か。」

ここで横島はふと今日の収穫から立体映像と生の魚介類を混ぜることにより生け簀のようなものにして刺身や活き作りでも提供出来ればと一瞬考えるも、刺身や活き作りを大量に提供するのは技術的にもコスト的にも無理なのは明らかで考えるまでもない。

ならば野菜にして取れ立てのサラダなども頭を過るが、アイデアとしては面白くてもコストと労力を考えると同じく無理だろう。

いっそ霊動シミュレーターでも使えれば擬似的に触れる立体映像が作れるのだが、もちろん霊動シミュレーターを普通に麻帆良祭の出し物に使うなどあり得ない話なのだ。

そう簡単にいいアイデアなど生まれるはずもなく結局はいつも通り店を開店する。


「貴様らも毎日暇そうだな。」

「もう十分働いたわい。」

「そうじゃ。 もう働くのは嫌じゃ。」

朝の時間は通勤前にと朝食を求める客でそこそこ賑わうが、そんな時間が過ぎると例によって年配者とアナスタシアがたむろする場所になる。

もちろん暇な主婦なんかも来るが毎日来てるのは年配者とアナスタシアくらいであり、流石に少し見飽きた顔ぶれにアナスタシアがため息を漏らすも年配者達はアナスタシアの毒舌にもけろっとしてる猛者達ばかりなので気にする様子もない。


「そういや最近ゲートボールするお年寄りって見ないっすね。」

「ゲートボールか? この辺りは場所がないからのう。 それにゲートボール場に行くと仕切りたがるヤツとか嫌なヤツとか口うるさいババアが多くて叶わん。」

「年を取っても人間なんも変わらんよ。 頑固さだけは若い頃より酷くなるから子供以上にタチが悪い。」

何というか子供の頃とは違う年配者達に横島はふと昔よく見たゲートボールをしないのかと尋ねるも、横島の店に集まる年配者達はあまり年寄りが集まるゲートボールが好きではないらしい 。


「君達は知らんじゃろうが、年寄りにも苛めがあるんじゃよ。 まだ若いもんが居れば世間体を気にするのか多少は違うが年寄りだけにすると人間関係が嫌になるわい。」

「麻帆良はまだマシじゃがな。 田舎に行くとつまらん理由で村八分にされる。 テレビじゃ田舎は地域による助け合いがあるとか綺麗事並べるが実態は田舎の方が酷い。」

そのまま横島の何気無い疑問から年配者達の愚痴が止まらぬようになり、横島は愚痴を聞かされるアナスタシアに睨まれることになる。

横島もアナスタシアもどちらかと言えば人間の負の面ばかり見てきたタイプなので嫌というほど年配者達の愚痴は理解するが、正直聞きたいか聞きたくないかと言われると聞きたくない。


「ねえねえ、みてみて!」

「おお、よく描けとるのう。」

「うむ、みんな楽しそうじゃ。」

そんな愚痴の流れを止めたのは先程から真剣に絵を描いていたタマモが出来上がった絵をみんなに見せに来た時だった。

どうも今朝の収穫の様子をスケッチブックに描いたようで、みんなが楽しげな笑顔をしてるのが印象的な絵になる。

自信満々で胸を張るタマモを年配者達が褒めていく中、横島は話の流れを止めたタマモに心から賛辞を送りたい程だった。


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