二年目の春・6

「世界樹通り商店街か。」

一方この日あやかは実家に戻っていて父である政樹と夕食を共にしながら少し気になることを相談していた。


「少し気になったもので。」

「狙いは確かに横島君かもしれないな。 あそこはうちと同じく歴史があるから。 確証はないけどこの辺で動かぬようなら逆に商店街の側をボケたのかと疑いたくなるよ。」

それはやはり世界樹通り商店街の納涼祭参加の裏側であるが、夕映やあやかが懸念した通り狙いは横島だろうと政樹もほぼ断定している。

確証は今のところないものの逆に言えば調べるまでもなくそろそろ動かねばならぬ時期であると言えて、将来を見据えるならば自然な形で横島との繋がりが欲しい頃だった。

横島自身は芦コーポレーションを筆頭に麻帆良カレーや納涼祭など外との関わりはそれなりにあるが、一番商店街が接近しやすいのは雪広家が直接関わりが少ない納涼祭だと言える。


「それほど警戒する必要もないんだけどね。 昔と違って商店街も随分力を落としてるから少し不安なんだろう。」

学園による自治都市である麻帆良は複雑な歴史の賜物のような現状であるが、商店街や引いては商工会が昔から麻帆良を支えてきたことには変わりない。

高度経済成長やバブル景気にその崩壊と時代の流れと共に雪広家は大きくなったが、商店街は時代の流れと共に人々の生活スタイルの変化から年々力を落としていた。

ただやはり現状でも馬鹿に出来ない影響力はあるので、あやかは横島が麻帆良における政財界の権力争いに巻き込まれることを懸念している。

中枢はほぼ近衛家・雪広家・那波家で抑えているが、野党という訳ではないがそれなりに他の勢力も残っているし残してもいた。

独裁というかワンマン経営の体制が長い目で見ると問題があるのは今更だろう。


「あやかが納涼祭を仕切ってるのに妙なことは考えないとは思うが、一応こっちの方でも少しアクションを起こしておくか。」

世の中綺麗事ばかりではないし万が一商店街の側に悪意なり良からぬ思惑があればとあやかは気にしていて、政樹はその心配はほぼないと理解するも多少の動きは見せておく必要があると判断する。


「木乃香ちゃんのお見合いを止めちゃったからね。 少し不満もあるのかもしれない。」

なおこの件の裏には横島が来るまで行われていた木乃香のお見合いも実は関係していて、見合い相手は東西の魔法協会や麻帆良の有力者の息子なんかであり一種の友好を深める為と不満を解消するガス抜きに使っていたという事情がある。

表向きはあくまでも近右衛門の趣味ということにしていたが相手は当然麻帆良の関係者と関西の関係者なのだ。

近右衛門は木乃香が見合いを嫌がっているとの理由で止めたし実際木乃香が以前からお見合いに乗り気でなかったのは関係者ならば知ってることだが、時期的に横島が現れた時期と重なったため余計に横島が注目を集めてるという事情もあった。

すでに横島の存在は隠しておけるものではなく麻帆良の各勢力に横島の背後に誰が居るか、今一度はっきりさせる必要があるかもしれないとあやかと政樹は話をしていく。

何処の世界にも愚かな人間は居るし、木乃香は無理でも横島ならば自分達の側に引き込めるのではと安易に考えられても困るのだ。

結果として雪広家の側でも多少は動く姿勢を見せねばならないようであった。



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