二年目の春・6

「お忙しいところお時間を作って頂きありがとうございます。」

そしてこの日の夕食を終えて常連達もほとんど帰った頃になると先日の四越デパートの千葉が訪ねて来ていた。

本来千葉は閉店後に来たかったらしいが閉店時間がまちまちなので、夕食後の頃ならばゆっくり話が出来るからと前回夕映に聞いた影響でこの時間に来たらしい。


「いや、こちらこそ先日はすいません。」

軽い挨拶を済ませた千葉はさっそく麻帆良フェアの説明から始めるが、横島と同席した夕映は千葉が持参した資料を見ながら話を聞くも少し申し訳なさげにしている。


「やはり難しいでしょうか?」

「そうっすね。 うちは現状で手一杯なんで。」

麻帆良フェアの話は普通に考えればいい話ではあるが、やはり横島達は現状で手一杯で新しく仕事を増やす余裕はない。

加えて新規のお客さんを増やすこともあまり望んでない以上はいかにいい条件でも受けれる話ではなかった。


「そうですか。 是非にとも貴店の味を銀座にて皆様に味わって欲しかったのですが。」

結果として妥協点がない以上はどうしようもなく四越デパートてしては諦めるしかない。

まあ元々個人経営の店では断られることに慣れてるようであったが、横島達が納涼祭や麻帆良祭に出店や関わってることから期待していたのだろう。


「ではスイーツの方の販売はいかがでしょうか。 こちらならば弊社社員が販売しますので貴店の手間は随分減りますが。」

ただ四越側としてもここであっさり引く訳ではなく切り札とも言えるスイーツの限定販売を提案をする。

四越側としては他の出店状況などから出来ればオムライスでの出店を望んでいたが、フェアでの調理なんかは慣れないと大変であり断られることを見越してスイーツの限定販売の方だけでもと考えていたらしい。

こちらならば横島達は製造するだけで後は四越側が運搬から販売まで責任を持つとのことで店にかかる負担はかなり少なかった。


「うーん、どうしようか。」

横島としてはこれ以上お客さんが来ても困るだけだが、そもそも麻帆良近郊ならばともかくそれ以上遠方からお客さんがそう増えるとも思ってない。

要はあまり気乗りしないという理由や類似する依頼が増えたら困るという理由も多分にあり、熱心な千葉の勧めに若干困ったように隣に座る夕映に話を振るというか丸投げする。


「フェアには麻帆良の有名店がほとんど出店してますね。 流石は四越デパートさんといったところでしょうか。」

「皆様にはご協力頂いて大変感謝しております。 」

「ただうちはご近所さんと学生向けの店ですので利益率を低く抑えてるです。 値段など出店の際に他の出店される方々にご迷惑をおかけする可能性も……。」

そんな横島に夕映は内心ではまたかと思いつつも、横島に話をさせて安易に引き受けたりおざなりに断られても困るので結局夕映が話を引き継ぐ形で詳しい話を聞いていく。

四越の千葉もここまで来ると誰を口説けばいいか理解したらしく見た目が幼い夕映に誠心誠意対応していき、横島そっちのけで話は進むことになる。




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