二年目の春・6

「四越デパート? ああ、そういや来るって言ってたな。 言わなかったっけか? 」

「聞いてないです。」

その後四越デパートの千葉は用件を伝えて帰ったが、簡単に言えばオムライスを麻帆良フェアで出店して欲しいらしい。

横島があやかと共に戻ったのは夕方を過ぎた頃で夕映から報告を受けるも、どうやら四越デパートは事前にアポイントメントを取っていたようで横島のうっかりミスだったようだ。


「すまん、すまん。」

「連絡事項を忘れては困るです。」

少しジトッとした目で見上げる夕映に横島は笑って誤魔化すものの、基本的にどんぶり勘定で良くも悪くもいい加減な横島はこの手のあまり困らない程度のうっかりミスが時々ある。

夕映としてはアポイントメントがあったかなかったか知らなかったのでその辺りを誤魔化して麻帆良カレーの話題から話に入ったが、どうせ横島のうっかりミスだろうということで用件を麻帆良カレーのことだと考えていた風を装うなど結構大変だったのだ。


「いや、アポの段階で断ったんだけどなぁ。 どうしても直接話したいって言うからさ。」

「フェア中の一日だけでも出店して欲しいようです。」

ただまあ横島のフォローをしてるとこの程度のことは日常茶飯事なので夕映もさほど責めるつもりはなく四越の用件を話すが、麻帆良フェアの目玉の一つとして期間中一日だけでも出店して欲しいとの内容になる。

ちなみに店には予約や注文書や連絡事項を見える場所に張る為のコルク製の掲示板があり横島も使ってるが、一番連絡ミスをするのはやはりいい加減な横島だったりする。


「期間は九月の中旬予定らしく日曜の最終日にと考えてるようでした。」

「うちにメリット無いんだよなぁ。 これ以上忙しくなっても困るし。」

先方は一流企業と言えるし筋を通してるので会わざるを得ないが横島としてはメリットを感じてなく、むしろ忙しくなるから嫌だとさえ考えていた。

結局店は横島の道楽商売なので外部から見たり感じたものと温度差があり、四越にしても腕前の割に知名度が麻帆良外には知られてない横島にもメリットになると考えてるのだろうが横島は名声や知名度は必ずしも求めてない。

その辺りのことをきちんと話さねばならないようである。


「天下の四越ですからね。 近年は様々な理由から業績低迷してるようですが潜在力とブランド力は抜群です。 麻帆良カレーの実行委員会でも力を入れて出店する予定です。」

「そうだ、新堂さんのとこ紹介するか!? 新堂さんのとこなら最適だろ!」

「残念ながら新堂先輩の店と超包子はすでに出店予定です。」

近年では小売業は雪広グループなんかも経営する郊外型のショッピングモールなんかがあるし通信販売など一昔前と違いデパート業界は厳しいようだが、それでもまだまだ斜陽の業界とは言えず横島に少しでも野心があればチャンスであることに変わりない。

しかし横島にその手の野心は周りが驚くほどなく得意の丸投げで知り合いの店を紹介しようとするが、横島が薦めるような店は当然四越も目を付けていてすでに出店が決まっていた。


「マスターってあれよね。」

「うん。 どっちが大人かわかんない。」

なお横島と夕映の話を聞いていた亜子とまき絵は、二人の話す内容にどっちが大人か分からないと至極当然の感想を抱き笑っている。

冗談抜きにして横島をフォローしてある程度でもコントロールしている夕映が大人に感じるし、実際横島を理解して細かな気遣いをしながらサポートしている夕映やのどかは相対的に評価が上がっていく。

結果として夕映の麻帆良外での社会人デビューが早まっただけなのかもしれない。


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