二年目の春・6

「今日はごちそうね。」

さて近衛邸の夕食は家族水入らずでの夕食となっていた。

屋敷の中でも日頃から詠春や穂乃香が使う部屋はさほど多くなく、特にリビングというか居間として使ってる部屋は十二畳ほどの普通の和室なのでテレビもあればカレンダーもあったりと本当にごく普通の日本の家庭そのものである。

格式やら伝統やらいろいろ煩い関西であるが、公式な場ならともかく実生活にまでそんなもの持ち込んでる人間は関西でもほとんど居ない。

食事も公式な持て成しならば御膳にて食べるが、日頃は普通にテーブルで家族揃って食べるようにしていた。


「慣れへんオーブンやったんで大変やったわ。」

「あら、厨房オーブンそんなに使いにくいの?」

「ううん。 お店のオーブンより使いやすいえ。 でもウチあれに慣れてるんや。」

夕食のメニューはローストビーフを筆頭に洋食で纏めていたが普通にご飯がお茶碗であるのが家庭らしい光景だろう。

屋敷と離れなどに住み込みの人達にも木乃香は料理を振る舞っていて、こちらはもう少し見た目を意識してお皿にご飯を盛り付けて提供したが。

食卓を囲む会話は母と娘が中心で父はそんな母子の様子を嬉しそうに見ている。

しかし人は年を重ねる毎に先のことが気になり考える時があるが、詠春もふと今そんな先のことを考え始めていた。

この先何度こうして食卓を囲めるのだろうかと思わず考えてしまうらしい。

まだ老け込む年ではないし詠春もそんな気など更々ないが会える日にちが限られていて、幼い頃に一緒に暮らせなくなった我が子の可愛さは他の家族と少し違う重みがあるのかもしれない。


「タマモちゃん元気にしてる?」

「うん、元気や。 毎日お散歩に行ってるしな。 京都にも来たいって騒いでたわ。」

「今度みんなで遊びにおいで。」

一方の穂乃香は麻帆良の日々と賑やかさが今も懐かしいようで、木乃香の最近の様子を聞いたりタマモのことを聞いたりしている。

京都の近衛本家には麻帆良のような賑やかさはなく常に静けさに包まれてるような落ち着いた場所だが、麻帆良で生まれ麻帆良で育った穂乃香とすれば今も京都よりは麻帆良が好きなのかもしれない。



「ガトウ。 まさか貴方と再び会える日が来るとはね。 誰が何を思い貴方をこうしたのかは知らないが、その者に感謝しなくてはならないならないのかもしれない。」

そんな親子水入らずの夕食を食べた後に詠春は一人で近衛邸の敷地内にある蔵の更に奥に来ていた。

そこには関西呪術協会が所有する貴重な宝物や巻物などが多数あるが、なんとそこに瀕死のガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグが瀕死のまま石化された姿で静かに生きている。

あまりに強力な永久石化の魔法により石化を解くことも叶わぬし、仮に石化を解いても命が助からないかもしれないほどガトウは死の間際に石化されていた。

誰が何を思いこんな非道なことをしたのかと詠春は怒りに怒ったことは一度や二度ではない。

しかし皮肉なことにガトウを救える可能性はあっさりと見つかったというか、横島ならば普通に助けられることだった。

時が来れば必ずと物言わぬガトウに誓った詠春は静かに蔵を後にする。

娘がもたらした奇縁に感謝しながら。


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