二年目の春・6

「また戦い方が違うの?」

刀子に修行の相手を頼まれてなんとなくすることになった横島であるが、この日は何故か無手のまま刀子と手合わせする。

手合わせ自体は刀子が望んだものであって少しでも横島から何かを学びたいとの考えからであったが、無手となると前回の横島が神剣を使った割と王道の剣術だったので少しばかり驚いてしまう。


「同じだと芸がないかなと思いまして。」

ここは霊動シミュレーターではなく周囲には非戦闘員のハニワ兵やまき絵と亜子も居るのであまり激しい手合わせは出来ないが、横島は横島なりに考えがあっての無手を選択していた。

神鳴流の野太刀を相手に無手では間合いが違うので客観的に見て不利であることに変わりはないものの、基本的に神鳴流は矢切りどころか弾丸や魔法すらも斬り裂くので単純に距離を開ければいい訳でもない。


「うわ~、なんかハラハラするわ。」

もちろん横島は距離に関係なく攻撃出来るので無手か無手でないかはあまり関係ないのだが、今回横島は刀子の野太刀の間合いギリギリのところで攻撃を避けることに専念している。

それは端から見るとやはり時代劇の殺陣のようにも見えるものの野太刀のスピードは殺陣とは比べ物にならず、当たれば斬られるように見えてしまいまき絵と亜子をハラハラさせた。


「先生、本当に大丈夫なの!?」

「大丈夫だよ。 横島君、僕や葛葉先生より桁違いに強いから。 実力的に二人がかりでも子供のように軽くあしらわれるよ。」

積み重ねたイメージのせいかどうしても横島は強くは見えないようで本当に大丈夫なのかと二人は不安になるようだが、流石に高畑と刹那やタマモとさよは動じておらずにタマモは時代劇みたいだと拍手すらしている。

高畑はそんな二人を落ち着かせるように実力差を語るが昨日の今日なので今一つ実感出来ないらしい。


「動きが読めないわ。 紙一重で避けたと思ったら変な動きで避けるんだもの。」

「その方が修行になりますよ。 そもそも刀子さんの弱点はその強さですからね。 同門の桜咲さん以外に修行相手が居ないのもありますし。」

ちなみに横島は避けることに専念しているものの紙一重で当たり前のように避けたと思ったら、次の瞬間にはオーバーアクションだったりと理にかなわぬ変幻自在な動きで避けていて刀子を惑わしている。

動きのパターンどころか体の捌き方まで一瞬で豹変するのは横島くらいであり、刀子としては当然ながら対応出来ずに翻弄されてしまう。


「ねえ、マスター。 なんで強いのが弱点なの?」

追撃の手が止まり理解できない横島の動きに困惑する刀子に横島は何気なく刀子の弱点を語るが、その言葉の意味を理解出来ないまき絵が空気を読まずに普通に口を挟み質問していた。


「強すぎて満足な修行相手が居ないんだよ。 ゲームの世界じゃあるまいし実戦経験もさほど積めないしな。」

「マスター強いんでしょ? 相手してあげればいいじゃん。」

まき絵としては強いのが何故弱点になるか理解出来なかったようだが、強すぎて修行相手が居ないと言われると某七つの星の玉を集める漫画を頭に浮かべてなんとなく理解する。

だが同時にならば横島が相手をしてあげればいいと平気で言う辺りが彼女らしくもあり、刀子がそんなまき絵の裏表がまるでない言葉に吹き出すように笑ってしまうと二人の手合わせはなし崩し的に終わることになった。

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