二年目の春・6

「おっ、いい出来だ。 これならお客さんにも出せるな。」

さて横島の店では木乃香とのどかと一緒に今夜に向けて誕生パーティ料理をいろいろ作っていたが、今回はメインのローストビーフを木乃香に任せるなどしていた。

ローストビーフに関しては横島が麻帆良に来てから割とよく作るパーティ料理であったが、調理中の温度管理など意外に難しくまた作る機会も流石に多くない為に木乃香が一人で作ったのは始めてである。


「でも店で出すには値段が問題ですよね」

「まあな。」

ただ流石に一年余りも横島の手伝いをしていた木乃香のローストビーフは十分店にも出せると横島も太鼓判を押すであるが、ローストビーフ自体が原価やら販売価格やらをある程度学び理解してるのどかは店では利益なしの日替わりメニューくらいでしか出せないことを理解していた。

まあビーフシチューを筆頭に横島の料理には喫茶店には向かない料理も珍しくないので今更であったが。

なんとなく宝の持ち腐れのような気がしないでもないが、かといって横島には高級レストランなんかは性格的に向かないのも理解してるので現状が一番なんだろうとも彼女は思う。


「いつかお父様とお母さまにも作ってあげたいわ。」

「いいんじゃないか? なんなら瞬間移動で送り迎えしてやるぞ。 移動に時間かからんならいつでもいけるだろ?」

「ほんまに!? それは嬉しいわ。」

一方の木乃香は自ら試食しつつ、いつか両親にこんな料理を振る舞いたいと口にする。

今年に入ってからは木乃香の誕生日に会ったりと会う機会は増えていたが、ここ数年は年末年始とお盆くらいしか帰省出来ておらず両親も寂しい想いをしてるのは理解してる故に成長した姿を見せたいという想いは強い。

そんな木乃香のちょっと寂しげな表情に横島はそれならばと瞬間移動による帰省を木乃香に勧める。

実は木乃香はあまり知らないが詠春は土偶羅による転移で極秘に麻帆良に来ては近右衛門と話す機会が今年は増えていた。

他の少女達は両親や周辺が魔法を知らなかったりして同じようには難しいが、木乃香の場合は実家に魔法関係者しか居ないので別に横島が瞬間移動で送り迎えをしても何の問題もない。


「詠春さん達も苦労してるからなぁ。 それくらいの役得がないと魔法協会なんてやってられんだろ。」

「なら今週の金曜の夜に行って土曜のお昼頃帰ってくるようにお願いしてもええかな?」

「もちろんいいぞ。」

横島の突然の提案に少し考えた木乃香であるが、さっそく今週の週末にでも実家に帰省してみたいと告げるとあっさりと決まることになる。

長距離の転移魔法はこの世界では高難易度の魔法であるが横島の瞬間移動は元の世界の神魔の術であり、近所のスーパーに行くのも京都に行くのもあまり感覚的には差はない。

ただなんとなく思い付きで言い出した話に木乃香が予想以上に食い付き喜ぶ姿には驚いていたが。

横島からするとそんなに喜ぶくらいなら言ってくれたらいつでも送り迎えくらいしたんだがと思うが、木乃香は木乃香なりに気を使ってもいたし魔法に頼りすぎるのはダメだと戒めてもいたのだ。

結局横島から言われると素直に喜ぶ辺り、いつか魔法で帰省とか出来たらいいなと期待はしていたのだろう。

嬉しそうな木乃香の姿に横島ものどかも思わず嬉しくなるような気分となり料理をしていく。


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