二年目の春・6

西の空が夕闇に包まれる頃、チアリーディング部の練習を終えた美砂は円と桜子と三人でいつものように夕日に見守られながら帰路に着く。

周囲には部活帰りの学生達も多くあれこれとたわいもない話をする声や笑い声が響く。


「柿崎、これ。 今日誕生日だろ?」

美砂達三人もまた今日行われる美砂の誕生パーティのことなどで騒いでいたが、ふと気付くと顔見知りの高校生の男子が駅で突然声をかけてくると少しぶっきらぼうに小さな紙袋を手渡してくる。

駅の人の流れから少し離れたところで彼はずっと美砂を待ってたようで紙袋の中身はプレゼントであろう。


「ありがとうございます、先輩。 でも私やっぱり答えられませんよ?」

「分かってる。 別にそれ以上の意味もないし期待もしてない。」

突然始まった青春のような一幕に円と桜子は少しニヤニヤとしながら見守っていたが、美砂は意外に真剣というか真面目な表情でお礼を言うもそのまま目の前の先輩と呼ばれた男子にとってはトドメとも言える一言をあっさりと口にした。


「先輩相変わらずですね。 あの人が居なきゃ多分惚れてましたよ。」

「相手が悪かったのは理解してる。 あの人は俺にないモノたくさん持ってるからな。」

「先輩のそういうとこ好きですよ。 いい人見つけて幸せになって下さい。」

彼は以前に一度美砂に告白をしてフラれた過去がある。

千鶴や古菲ほどではないがチアリーディングとして学園の運動部の応援に行く美砂達は男子と知り合う機会も意外に多く結構モテる。

以前に告白された際に美砂はキッパリと断り理由も告げたのだが、誕生日のこの日せめてプレゼントを渡したいとやって来たらしい。


「ああ、多分これが最初で最後だ。」

長い時間待っていた割に目の前の先輩は二言三言話すとあっさりと帰っていき、これが最初で最後だと悲しみや寂しさを隠したような言葉を残していく。


「真面目でいい人なんだけどね。」

「いい人で終わりそうな先輩だよね。」

チアリーディングのせいかそれとも今時の女子中学生らしいせいか、結構軽いようにも見られる美砂達の元にはあわよくばヤれるかもという下心が見え見えの男子がよく来ていて今日の先輩のように真面目で硬派な人は珍しかった。

円と桜子はそんな一昔前の硬派のような先輩に好感を覚えつつも損しそうな人だなと他人事のように呟いている。


「ねえねえ中身は?」

「これ新堂先輩のとこの紙袋だしお菓子じゃない? 形に残らないものくれるとこがまた先輩らしいわね。」

一方の美砂は騒ぐ円と桜子に合わせるように笑みを浮かべていたが、同時に少しだけ横島の居ない世界の自分について考えていた。

以前超鈴音の話をした時に聞いた平行世界とも言える彼女の過去の自分は、いったい誰を好きになり誰と付き合ったりしたのだろうかとふと考えてしまう。

もしかしたら自分は今の先輩と……なんて少し考えたりもしてしまうが、美砂にとっては今あるべき現実が全てでありそれ以上はよく分からなかった。


「帰ろっか。」

結局美砂は円と桜子と騒ぐように再び帰路に着きつつ、願わくば先輩が自分のように心から好きになり愛せる人に出会って欲しいと願う以外に出来ることはなかった。



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