二年目の春・6

さてこの日の夕食はラザニアだった。

本格的に作れば少し手間のかかる料理だがラザニアに必須と言えるミートソースとベシャメルソースを市販の物をベースに一手間加えたものを使うことで調理時間を短縮出来る。

材料費や味を第一にするならば自分で一から作るべきなのだろうが、調理時間を短縮するのは日々の食事では必要なことだった。


「意外と簡単ですね。」

「市販の物でも十分美味いからな。」

加えてこの日夕食の手伝いをしているのが明日菜と夕映であることも大きく、彼女達の力量では一からミートソースやベシャメルソースを教えるにはまだ早く市販のソースを使ったお手軽メニューから教えることが必要である。

まあこの手の商品は普通に飲食店でも使ってる場合もあり、決して美味しくない訳ではない。


「元々はイタリア料理でしたか? 意外とご飯に合うのですよね。」

「うちのはご飯に合うように多少アレンジしてるしな。」

オーブンで焼き始めたラザニアの香ばしい匂いが厨房に広がる中で他のおかずも作っていく横島と明日菜と夕映であるが、時間的にもお腹が空いているので焼ける時間が待ち遠しく感じる。

一年前は包丁の握りかたすら怪しかった二人も、この一年でそこそこ上達していて一般的な同年代で考えると決して劣ってはいない。

通常の女子中学生が部活に汗を流す時間に調理を手伝っているから当然と言えば当然かもしれないが、普段あまり目立たない一面での成長は確実にしていた。


「超さんはどうするんでしょうね。」

「進むも地獄引くも地獄ってな。 どんな道選んでも彼女だと地獄に進みそうな気がしないでもないな。」

そんな中で夕映はふと先程まで話をしていた超鈴音のことが頭から離れなかった。

今年の麻帆良祭を境に未来に帰るのか、もっと言えば魔法公開に変わる新たな計画でも始めるのか気になっていた。


「そんなにヤバいんですか?」

思わず超の名を口にした夕映に横島は他人事のように少し厳しい言葉で答えると、今一つ深刻さを理解してない明日菜がビックリした様子で話に加わる。


「さあ? 俺にもわからんよ。 ただ超さんは自ら地獄とも言える道に進みそうな気はするけどな。 それに歴史を意図的に変えた事に対する報いもいつか彼女に還る気もするしな。 このまま大人しく普通の人としてやり直すのが一番なんだろうけど。 超さんに出来るかどうか。」

過去とも言えるこの時代に残る決断をしたことをまだ知らない横島は、超が未来に帰ろうがこの時代に残ろうが自分が口を出す問題ではなくどちらでもいいと思っていた。

以前にも話したがこのままでは彼女の未来には帰れないので帰るならばそこは教えてやるべきだとは思っているが。

仮にこの時代に残った場合でも流石に麻帆良に迷惑をかけることはしないかもしれないが、いつの日か魔法世界の問題に再び取り組むのではと感じている。

冷たいようだが横島としては他所に迷惑をかけないで魔法世界をなんとかしてくれるなら諸手を上げて歓迎すると言えるものの、世の中そう甘くないのが現実であり無理をすれば必ずどこかに歪みが生まれるのだ。

すでに歴史を変えた報いも彼女はいずれ受けるだろうし、この先の超鈴音の人生は恐らく波瀾万丈なものになるだろう。


「複雑ですね。」

「まあな。 今は詳しく言えんが彼女の目指す先は茨の道どころじゃないからな。 どっかのご隠居様みたく印籠出して即解決するような問題なら誰かがやってるだろうよ。」

「横島さんでも無理なんですか?」

「無理だな。」

ある程度問題の深刻さを理解する夕映とあまり理解してない明日菜だが、それでも二人は同じようにアシュタロスの遺産なんて非常識なものを持つ横島が無理だと語る超鈴音の目指すものは何なのかと信じられない思いで聞いていた。
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