二年目の春・5

「二人に教えるんっすか?」

「時期は折を見てとなるけど、学園長先生は構わないそうよ。」

楽しかった誕生パーティーも終わり少女達が女子寮に帰りタマモとさよが二階に上がると、店には刀子と高畑とエヴァ一家だけが残っていた。

残り物の料理を肴に酒を飲んでる面々であるが、刀子はまき絵と亜子の扱いについてちょうどいいからと説明している。


「なんか芋づる式に増えてますね。」

「実際時々あることなんだよ。 何かのきっかけに魔法がバレて一つのクラスがほとんどそのまま魔法関係者になったなんて話も前にはあったらしい。」

横島としては教えても構わないとは思っていたがわざわざ教える必要性も感じてないため、刀子の素早い根回しに驚きながらも半ば他人事のように受け止めている。

ただ魔法の秘匿と魔法バレした者への対応の難しさは今に始まったことではなく魔法協会でも秘匿情報管理部という専門の部署を作り対応しているが、所詮は人の口に戸は立てられないのが現実で魔法バレ自体は実はそれほど珍しいことではないらしい。


「そりゃまた大変そうで。」

「ほとんどはきちんと説明して多少の飴を与えれば問題ないんだよ。 極一部には極端な主義や思想を持ってて記憶の消去した前例もあるようだけどね。」

まあ大人が魔法バレをすることはまずないが学生は意外にあることらしく、秘匿情報管理部が別名痴情処理班と呼ばれているように一番厄介なのは恋愛が盛り上がり秘密を明かした後に喧嘩や別れ話となった時である。

魔法バレの一番の原因がそんな恋愛絡みなことであり、周囲の友人なんかを巻き込んで秘密がバレてしまうことは少なくないらしい。


「下手に騒がれるよりはね。 幸いなのは明石教授のお嬢さんが居ないことかしら。」

高畑と刀子からすると魔法バレの件は意外によくあることらしく冷静に受け止めているが、刀子はまき絵達と親しい明石教授の娘である裕奈がそれほど横島に興味が無さげなことから魔法を教える必要がなくホッとしていた。


「ああ、裕奈ちゃんか。 そういや彼女は魔法を知らないんでしたっけ?」

「横島君も知らないことがあるか。 明石教授の話は麻帆良の魔法関係者だと有名なんだけど、教授の亡くなった奥さんはメガロメセンブリアとの和解をしようとしたんだけど魔法世界で亡くなったんだよ。」

裕奈はまき絵達と親しいし店にも時々来るが、夕食に来たりすることは希で最近まき絵と亜子が店によく来ても彼女は来ないのだが実は裕奈は魔法関係では少し複雑らしい。

それはもう何年も前のことだが裕奈の母である明石裕子はメガロメセンブリアとの融和派とも言える立場で、二十年前の一件以来関係断絶していたメガロメセンブリアとの関係修復にと個人でメガロメセンブリアの活動に参加したりしていたメンバーの一人であった。

当時は関係断絶から十年が過ぎていてそろそろ関係修復をとの声が麻帆良でも出始めていたのだが、時のメガロメセンブリアは彼女達を厄介者扱いして嫌がらせのような危険な任務などをさせていたらしく明石裕子を初めとして死者がかなり出た過去がある。

まあメガロメセンブリア側もすべてが彼女達を厄介者扱いしていた訳ではないが、メガロメセンブリア内部での政争に巻き込まれる形で彼女達のような反メガロ出身の人は冷遇され結果として現在に至るまで関係は一切改善してない。

明石教授自身もどちらかと言えばメガロメセンブリアとの和解を考えていた側だったが、妻を亡くして以降は裕奈に教えていた魔法を止めさせ普通の子として育てるなど変化していた。

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