二年目の春・5

「美味しいわ。 麻帆良祭でこれ出せたらええのに。」

「それだ!」

「それだじゃありませんよ。 ハルナ、これ一杯いくらで売る気なんです?」

そのまま気心が知れた仲間達とご馳走で誕生日を祝うというのはいいもので、まるで家に居るように寛ぎながら食事と会話を楽しむ一同だが話題はいつの間にか今年の麻帆良祭に移る。

亜子がふと初めて食べたビーフシチューにこれを麻帆良祭で出せたらきっとみんな驚くだろうと口にするとハルナが何故か同意してしまうが、夕映はおおよその食材費を知るので無理だろうと相変わらず突拍子もないことを言い出すハルナに呆れ顔だ。


「考える方向性は悪くないんだけどな。 大量に作りおき出来るし。 ただ原価を考えたらメインじゃむりだな。 去年みたく限定ディナーでもやるなら考えてもいいけど。」

ハルナにしてみればとりあえず面白そうだから乗っただけだろうが、横島は原価以外でも手間がかかりイベント向きな料理ではないと理解しつつも昨年のように数量限定の高級ディナーでもやるならば面白いだろうとは思う。

しかし考えるならばメインで売るものから考えないと調理計画は立てられないので、今のところは具体的に考える段階ではない。


「そこそこ料理が出来る人でも作れて、プラス作りおき出来ればなお良し。 それでいて手頃な値段でみんなが食べたくなる料理って感じかしら?」

「うーん、そんなとこだろうな。 幅広い層にって考えるならあんまり個性的な料理はダメだろ。」

「シンプルなのに他じゃ真似しにくい料理? そんなのあるの?」

横島の作る料理は絶品だが、基本的に作れるのが木乃香かのどかしか居なくどう考えてもそのままじゃクラスの出し物に出来ないのは欠点というか難点だった。

メインに出来るようなメニューの条件をとりあえずみんなで出しあってみるが、高度な技術は使えず大量調理を前提とするとなるとかなりの難問題なことがすぐに明らかになる。


「全く新しい料理って作れないの?」

「簡単に言うけどさ。 麻帆良カレーにしても別に全く新しい料理じゃないしな。 元はカレーだし海外だとスープ状のカレーもたくさんあるしさ。 なんかあるかなぁ。」

少女達は横島に近い者達ですら横島に任せれば何かいいアイデアがあるのではと安易に考えてる者も居るが、世界中の料理や食材が集まる日本において早々新しい料理なんか作れるはずがなかった。

横島としては海外の料理やなんかを日本向けにアレンジでも出来ないかとここしばらく考えているものの、試作品の段階を越える料理は今のところ出来てない。


「新しい料理ではなくよくある料理をアレンジした方がいいのではないでしょうか? お祭りだと焼きそばとかお好み焼きとかならアレンジしやすいと思いますけど。」

「そうやな。 新しい料理って考えもええけど、奇抜過ぎたらアカンし難しそうやわ。」

結局は昨年やり過ぎてハードル上がりすぎだなと少し冷や汗を流す横島であるが、そんな横島の心情を理解してかのどかが考える基本的な方向性を新しい料理ではなくよくある料理のアレンジにしてはと提案すると木乃香が真っ先にそれに賛成する。

二人は横島の実力も限界もある程度理解している故に、全く新しい料理なんてのは麻帆良祭の条件では無理だろうと理解していた。


「焼きそばとお好み焼きか。 アレンジするだけならまあなんとか。 ただソース焼きそばを超えるとなるとこれまた簡単じゃないけど。」

知らず知らずのうちにハードルを上げてしまう少女達に対しなんとかハードルを下げようとしてくれたのどかと木乃香に感謝しつつ、彼女の意見で考えてみるが少なくとも現状ではそれが無難であり横島はそちらの方向で考えてみることにする。


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