二年目の春・5

「壮大な夢だね。」

「しかし軌道エレベーターは僕達の手に余る。 あれは民間でやるには無理があるよ。」

一方この日雪広姉妹の父である政樹と千鶴の父である衛は土偶羅の分体である芦優太郎と共に今後の宇宙開発についての話をしていた。

超鈴音が魔法世界救済の切り札として火星のテラフォーミングをしようとしていたことはすでに両者も承知の上であるし、加えて超鈴音の歴史においても今後百年で人類は宇宙に進出する歴史となっている。

雪広・那波の両社としても今後この世界でも進むだろう宇宙進出時代に自分達がどう関わるかは今から考え必要ならば準備をしなくてはならなかった。


「軌道エレベーターに拘る必要はない。 あれは建造のみならず維持管理に膨大な費用がかかる。 それに政治的にも民間で持つのは許されないだろう。」

実は超鈴音は魔法公開後にメガロメセンブリアを解体してその財力や影響力を元に宇宙開発をして最終的には火星のテラフォーミングをしようとしていたようで、それに関わる第一段階として軌道エレベーターも計画していたのだ。

議論の叩き台としてまずは超鈴音の計画を参考に宇宙開発を考えていく三人だが、第一段階の計画からして根本的な立場の違いから自分達には向かない計画だということが判明する。


「それじゃあ、ロケット開発かい?」

「方向性としてはそちらの方がいいとは思う。 こちらでも現在は魔法動力の大気圏突破型シャトルと空間転移で往来をしているしな。 シャトルか転移魔法の技術が進めば軌道エレベーターは不用だ。」

まあ別に自分達が先陣を切って宇宙開発するつもりは今のところないのでいいのだが、可能ならば独自に大気圏突破する術は欲しいようだった。

土偶羅としても魔法協会の規模で軌道エレベーターを建造するのは利に叶わぬと結論付けていて、個別で打ち上げするシャトルやそれに必要な周辺技術の基礎研究を始めることを提案する。

ぶっちゃけ異空間アジトでは既に月に技術研究用の都市をドクターカオスが作っていて、カオスが居なくなり維持管理だけして放置していた月面都市を現在ではハニワ兵達が観光地としていて旅行先として人気なのだ。

移動手段は大気圏突破型のカオスフライヤーと異空間アジトの管理に使われるコスモプロセッサー型システムによる空間転移で、こちらは異空間アジトの出入りに使うのと同じ要領で異空間アジト内ならば何処でも移動は可能だった。

宇宙開発はいかに宇宙空間に大量の物資を打ち上げ出来るかで開発スピードが決まるが、その点では空間転移なんて技術があれば開発は加速度的に早められる。


「ロケットの研究は十年以上してるんだけどね。 予算の関係から研究の段階を突破してない。 どう考えても赤字なんだよね。」

ちなみに雪広・那波の両社では麻帆良学園のロケット工学部と共にロケットの基礎研究は地道に続けていて、JAXAによるロケット打ち上げにも主要部品ではないが少し関与している。

独自研究は現状でもその気になれば小型の無人ロケットならば実験機の建造も可能なレベルには達しているものの、いかんせん作っても赤字になるのが目に見えていて未だに手をつけてない。

現在の宇宙開発では衛星打ち上げしかビジネスとして成立しないが、打ち上げの数もさほどない現状で日本の民間で収益を上げるのはほぼ不可能だった。


「ならばロケット自体は現状ではそれで十分であろう。 周辺技術や有人ロケットの基礎研究などは必要だろうがな。 魔法動力の飛行機に関しては総研にやらせるべきだと思う。」

結局現状では予算と技術レベルの問題から出来ることら限られていて、地道な基礎研究とその道の人材育成を進めるしか方法がないようである。

正直雪広と那波もいろいろ案件を抱えているのでいつ必要になるか分からぬ宇宙開発技術に予算を必要以上使うのは不可能なのだ。

加えてすでにハニワ兵により開発されている無人惑星の存在もあり優先順位はあまり高くはなかった。


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