二年目の春・5
「この男も懲りんのう。」
同じ頃近右衛門は公邸である自宅にて土偶羅の分体である芦優太郎と話をしていたが、とある男の最新情報にいい加減にして欲しいと言いたげな表情を見せる。
「高畑・T・タカミチがあまりに動かんからな。 焦れたのだろう。」
とある男とは言わずと知れたことだろうがクルト・ゲーデルであった。
修学旅行に合わせて直に会いに行く計画を阻止されたのが記憶に新しいクルトであるが、昨年から度重なる失敗の連続に焦れたのか徐々に思考や計画が最近更に先鋭化しつつあるとの報告である。
具体的にはメガロメセンブリアでのクーデターを本気で検討し始めたらしい。
「上手く行くと思えんが……。」
「最悪現状の体制を崩壊させれば付け入る隙があると考えてるようだ。 一番体制崩壊の可能性の高いのは二十年前の真実や過去の悪事を全てばらすことでだが、その場合は少なくともメガロメセンブリアは混乱するし連合も辺境などは離反する可能性がある。 下手をすれば連合の内戦が始まるな。」
クルトの目的はやがて滅びを迎える魔法世界から五千万のメガロメセンブリア市民を救うことにあるが、結局のところ建国以来メガロメセンブリアを支配する現在の秩序を崩壊させない限りは彼が権力を握ることも市民を救うこともまず不可能だった。
元々メガロメセンブリア市民を救う為には帝国やアリアドネーなどの元来の魔法世界人達はもちろんのこと、メガロメセンブリア以外の地球側からの移民の子孫すら切り捨てることを考えていたクルトにとって現在のメガロメセンブリアの支配階級は別に救うに値する存在ではない。
実際のところメガロメセンブリア市民は魔法世界と地球側を合わせてもトップクラスといっていいほど民度が高く、人々や世界の為に働く立派な魔法使いが常に尊敬されてる国なのでもし二十年前の真実や過去の悪事などばらされたら激怒して政治家や特権階級を引きずり降ろすと思われる。
ただ国家の運営は綺麗事だけでは済まされぬし、勢力拡大の方便でもあり半ば自己満である世界への救済を本気でしようとすれば国は破綻するだろう。
加えて歴史の真実が明らかになればメガロメセンブリアは謀略と裏切りの国となり、その国民も世界の人々から忌み嫌われて二度と魔法世界の中心に立つことはないだろうが。
「頭の痛い問題じゃが手出しをするのものう。」
一難去ってまた一難かと悩む近右衛門は高畑というストッパーが外れバランスも失ったクルトは最早英雄とは言えぬ危険な存在になりつつあると思うが、それでも魔法世界への介入は麻帆良の為にはならないと判断していた。
「まあ現状ではまだ具体的な方法は決めておらぬようだ。 度重なる失敗で味方にも裏切り者が居るのではと疑ってるようだし、実際奴の身近に裏切り者もいる。 世界や国民を救いたいのは同じだが奴に着いていけるものは多くはないからな。」
結局理想が高すぎるが故に仲間や人々の支持が得られず先鋭化していくという歴史を見るとよくある流れになりつつあるクルトに芦優太郎は僅かに哀れみの表情をみせる。
現実に適応出来ぬその道の行く先は滅びでしかない。
「上手くいかぬ時は何をやっても上手くいかぬものなのかもしれんな。」
最終的にクルトに関しては引き続き動きを注視するしか方法はないが、同じ赤き翼で英雄の後継者と言われた高畑とクルトの現状に近右衛門は生きていく難しさを痛感する。
客観的に見てもクルトはやはり優秀であり、もう少し時間があれば本当に世界を救えたかもしれないほどなのだ。
だが現状は彼にとってあまりに厳しかった。
なんとも言えぬ想いを抱えたままこの日の話し合いは終わることになる。
同じ頃近右衛門は公邸である自宅にて土偶羅の分体である芦優太郎と話をしていたが、とある男の最新情報にいい加減にして欲しいと言いたげな表情を見せる。
「高畑・T・タカミチがあまりに動かんからな。 焦れたのだろう。」
とある男とは言わずと知れたことだろうがクルト・ゲーデルであった。
修学旅行に合わせて直に会いに行く計画を阻止されたのが記憶に新しいクルトであるが、昨年から度重なる失敗の連続に焦れたのか徐々に思考や計画が最近更に先鋭化しつつあるとの報告である。
具体的にはメガロメセンブリアでのクーデターを本気で検討し始めたらしい。
「上手く行くと思えんが……。」
「最悪現状の体制を崩壊させれば付け入る隙があると考えてるようだ。 一番体制崩壊の可能性の高いのは二十年前の真実や過去の悪事を全てばらすことでだが、その場合は少なくともメガロメセンブリアは混乱するし連合も辺境などは離反する可能性がある。 下手をすれば連合の内戦が始まるな。」
クルトの目的はやがて滅びを迎える魔法世界から五千万のメガロメセンブリア市民を救うことにあるが、結局のところ建国以来メガロメセンブリアを支配する現在の秩序を崩壊させない限りは彼が権力を握ることも市民を救うこともまず不可能だった。
元々メガロメセンブリア市民を救う為には帝国やアリアドネーなどの元来の魔法世界人達はもちろんのこと、メガロメセンブリア以外の地球側からの移民の子孫すら切り捨てることを考えていたクルトにとって現在のメガロメセンブリアの支配階級は別に救うに値する存在ではない。
実際のところメガロメセンブリア市民は魔法世界と地球側を合わせてもトップクラスといっていいほど民度が高く、人々や世界の為に働く立派な魔法使いが常に尊敬されてる国なのでもし二十年前の真実や過去の悪事などばらされたら激怒して政治家や特権階級を引きずり降ろすと思われる。
ただ国家の運営は綺麗事だけでは済まされぬし、勢力拡大の方便でもあり半ば自己満である世界への救済を本気でしようとすれば国は破綻するだろう。
加えて歴史の真実が明らかになればメガロメセンブリアは謀略と裏切りの国となり、その国民も世界の人々から忌み嫌われて二度と魔法世界の中心に立つことはないだろうが。
「頭の痛い問題じゃが手出しをするのものう。」
一難去ってまた一難かと悩む近右衛門は高畑というストッパーが外れバランスも失ったクルトは最早英雄とは言えぬ危険な存在になりつつあると思うが、それでも魔法世界への介入は麻帆良の為にはならないと判断していた。
「まあ現状ではまだ具体的な方法は決めておらぬようだ。 度重なる失敗で味方にも裏切り者が居るのではと疑ってるようだし、実際奴の身近に裏切り者もいる。 世界や国民を救いたいのは同じだが奴に着いていけるものは多くはないからな。」
結局理想が高すぎるが故に仲間や人々の支持が得られず先鋭化していくという歴史を見るとよくある流れになりつつあるクルトに芦優太郎は僅かに哀れみの表情をみせる。
現実に適応出来ぬその道の行く先は滅びでしかない。
「上手くいかぬ時は何をやっても上手くいかぬものなのかもしれんな。」
最終的にクルトに関しては引き続き動きを注視するしか方法はないが、同じ赤き翼で英雄の後継者と言われた高畑とクルトの現状に近右衛門は生きていく難しさを痛感する。
客観的に見てもクルトはやはり優秀であり、もう少し時間があれば本当に世界を救えたかもしれないほどなのだ。
だが現状は彼にとってあまりに厳しかった。
なんとも言えぬ想いを抱えたままこの日の話し合いは終わることになる。