二年目の春・5

「うわ~、美味しそう! 高級料理みたい!」

「牛肉の赤ワイン煮込みだよ。 ただ高級料理じゃないな。 肉はバラ肉だしワインもそんなに高いやつじゃない。 元々フランスの家庭料理らしいしな。」

さてこの日の夕食であるが店の厨房では木乃香と明日菜と一緒に早くから店に来ているまき絵が横島に引っ付いたりしてあちが、夕方になると木乃香と一緒に夕食を作っていた。

今夜はあまり一般的な日本の家庭料理では使わぬ赤ワインを使った料理になるためまき絵が少々騒いでいるが、実際にはさほど高級料理でも無ければ珍しい料理でもない。


「へー、そうなんだ。」

「麻帆良祭のメニューの参考にでもなればと思ってな。」

実はこの日の夕食はただの牛肉の赤ワイン煮込みではなくこれを丼物にしようかと木乃香と話して試作した一品になる。

前日に決まった麻帆良祭の飲食店で販売するメニューの試作第一号になるが、昨日木乃香とのどかと話した際に出た丼物というアイデアから取り敢えず思い付くままに作っただけだった。

中学生でも大量生産出来て安価でお客さんの回転率が早いとなると単純に牛丼が頭に浮かんだらしく、そのまま牛丼を作っても芸がないのでフランス料理でも代表的かつ簡単な牛肉の赤ワイン煮込みをアレンジした料理を作ってみたらしい。


「昨日の今日でよう思い付くわ。」

「本当だね。」

まき絵どころか一緒に作った木乃香すら飲食店に決めた翌日には試作品を作る横島に感心するも、横島はさほど深く考えた訳ではなく夕食のメニューを考えるついでに思い付いたに過ぎない。

元々深く考えるタイプではないだけに横島としてはマイペースなだけだったが。


「下手な鉄砲も数撃てば当たるってな。 麻帆良カレーみたいな当たりはたぶん無理だけど。」

しかしまあ丼物一つ取っても意外に難しく麻帆良カレーのような斬新さがありながらも多くの人に好まれるようなメニューの開発は簡単ではない。

横島自身は今年は麻帆良カレーのような話題になる物は無理だろうと考えていて、昨年の成績からガッカリさせないレベルの料理がやっとだろうと思っている。


「美味しそうだしこれでいいんじゃない?」

「そう簡単にいかないだろうなぁ。」

ただ楽天的なまき絵は美味しそうな匂いに釣られてか、目の前の牛肉の赤ワイン煮込み丼でいいのではと言ってしまうが横島はこれでは無理だろうと呟くように言い切る。

ぶっちゃけ下手な物を出すくらいならば本家本元の麻帆良カレーをまた作った方が売れそうなのが現実で、3ーAのクラスでも実際にはそんな意見があったが昨年と同じメニューで同じような立体映像を使った店をやれば売り上げはともかく麻帆良祭のクラス別順位は確実に下がるだろう。

それに同じだとつまらないとの意見もあるし、どうせなら今年もチャレンジしたいとの意見が少女達の中には多かったらしい。

尤もそれらは横島や超鈴音ならば昨年を越えられると割と安易な期待をした結果でもあり、流石の超鈴音も少々困り顔だったが。

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