二年目の春・5

「お嬢様も変わったな。 」

その頃夕映とのどかが向かっていた麻帆良カレー実行委員会ではあやかが麻帆良祭における出店に関する仕事をしていたが、同じく実行委員会の一人は中学生ながら多忙なあやかを眺めてこの一年での変化に想いを馳せていた。


「そういやお前は去年の麻帆良祭の前から関わってたんだっけか?」

「ああ、志願したんだよ。 何か起こりそうな気がしたからな。」

意味ありげに変わったと呟いた男に近くに居た同僚が声をかけるも、男は麻帆良カレー実行委員会の最古参メンバーの一人で昨年の麻帆良祭の前から当時の2ーAと雪広グループの協力の為にとグループ会社である雪広食品から派遣されていた若手の社員である。

実は雪広食品では当時本社社長の娘のワガママに付き合うのは御免だとか下手に失敗して出世に響くのではと2ーAとの協力の担当になるのを嫌がった社員も秘かに居た中で、麻帆良学園の卒業生である彼が自分にやらせて欲しいと志願した結果そのまま本社勤務の麻帆良カレー実行委員会に配置替えになった経歴を持つ。

規格外の食材やら高級食材やら突発的な食材の発注など苦労も多かったが、それらに見事対応した彼は本社に引き抜かれる形で異例の出世をしていたのだ。


「で、変わったって何が?」

「いい意味で社長令嬢だってこと気にしなくなったように見えるよ。 前は少し気にしすぎてたからな。」

男は取り立てて優秀ではなかったが勘の良さと要領の良さで生きてきた人間であり、それ故に意外に不器用なあやかを見ていっそ開き直った方がいいのではと昨年の麻帆良祭の時などは感じたらしい。

仕事をやりにくいのはお互い様なのだとあやかを見て感じた男は、父親の会社の部下を相手にするあやかに秘かに同情もしていた。


「まあ話しやすくはなったよな。 くだらん親父ギャグにも笑ったり突っ込んだりしてくれるし。」

今では年配の社員のくだらない親父ギャグなんかに笑ったり突っ込んだりもしてるらしく自然な形で実行委員会に溶け込んでいるあやかだが、以前はお嬢様という立場や父親のことを必要以上に気にしている。

父親の会社の部下に気をつかい配慮してくれるのは有りがたいが、まだ中学生であるあやかが必要以上にやると逆に壁が出来てしまい双方ともに疲れるだけなのだ。


「無理もないよな。 周りはみんな幼い頃からちやほやして父親にぺこぺこしてた大人ばっかりなんだから。 でもまあいい友達も居るみたいだしこの調子だとうちの会社の将来は安泰だろうね。」

何故あやかが変わったのかは男達には分からないが時折笑い声も聞こえるほどコミュニケーションが取れてることは決して悪いことではない。

ましてあやかはまだ上司でも社長でも無ければ社会人ですらないのだ。

多少わがままを言ったり遊び心があるくらいの方がいいのではと変わったと呟いた男は思う。


「お疲れさまです。 例の非公認店の調査に行って来たです。」

「おう、お疲れさま。 どうだった?」

そのまましばし話し込んでいた男達は仕事に戻るが、夕映とのどかが来ると二人の行った店の話になり報告書を書いていて貰いながら今後の対応を話していく。

すっかり中学生が出入りするのに違和感がなくなった実行委員会の事務局では、割りと自由な雰囲気の雪広コンツェルン本社の中でも特に自由な雰囲気が何故か広まりつつあった。

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