二年目の春・5

「かんぱーい!」

そして夜になるとこの日の営業は終了したが、大きなトラブルもなく無事終わることが出来ていた。

評判もいいしみんなの連携も麻帆良亭の営業を重ねる毎に良くなっている。


「みんな連休なのに本当にありがとうね。」

最後の客を送り出すと麻帆良亭の看板を外しみんなで後片付けをして夕食となるが、ちょっとした打ち上げのような雰囲気であり乾杯すると坂本夫妻の妻は少女達に一日働いてくれた感謝の言葉をかけていた。

遊びたい盛りの自身の孫と近い世代の少女達が連休の一日を一生懸命働いてくれたことに坂本夫妻は感謝の気持ちでいっぱいだった。


「疲れたけど楽しかったですよ。」

「うん!」

ただ現在の麻帆良亭の営業はあくまでも横島の店のイベントという形になっていて坂本夫妻は雇われの身である。

従って働くメンバーの人選は完全に横島側に任せていて、細かい人数や誰を呼ぶかは坂本夫妻と話し合いをしつつ最終的には夕映達が決めている。

正直なところ麻帆良亭の営業日はもちろんのこと、坂本夫妻と弟子の藤井の報酬もほとんど坂本夫妻の妻と夕映達で決めていて横島は結果を追認するだけしかしてなかった。

報酬は初回こそ一般的な相場と坂本夫妻の実力から横島が決めたが店の営業経験は当然坂本夫妻の方が長いので内訳はほぼお見通しであり、今回からは遠方からわざわざ来る藤井に対して多く報酬を支払うことや横島の負担を考慮し坂本夫妻自身の報酬を抑えることなど坂本夫妻の側からの提案で変えている。

まあ横島としては相変わらず利益がないどころか赤字でも構わないとのスタンスだが、坂本夫妻の方はすでにそんな横島の性格を理解してか夕映達と話し合いをして誰かに負担が片寄らないようにと決めていたのだ。

ちなみに横島のいい加減な経営に関しては、職人の男の人はそんなものだと坂本夫妻の妻は意外と簡単に理解を示していたが。

横島とは少し違うが職人気質の人には細かな金勘定をしたがらない人が居たりするし、坂本夫妻の夫の方も料理はともかくあまり細かい経営は知らないらしい。


「ねえねえ、これまえとあじがちがうよ。 なんで?」

「ほう、タマモ君もいい味覚を持ってるな。 料理の中には季節によって微妙に味を変えてるものがあるんだよ。 それもその一つだな。 暑い時と寒い時には食べたいものが違うだろう?」

「なるほど! すごい!!」

少し話は逸れたがそのまま打ち上げのような夕食は賑やかに続いていくも、まるで頬に詰め込むように夢中に食べていたタマモがふと首を傾げると前と味が僅かに違う料理を見つけて坂本夫妻の夫に尋ねていた。

タマモとしては純粋に不思議に思っただけらしいがそのことに気付いていたのは料理に携わる横島と木乃香くらいだったので他の少女達は驚くも、タマモの味覚の鋭さに感心した坂本夫妻の夫が分かりやすく説明するとタマモは凄いとまるで新発見でもしたかのようにパチパチと拍手する。


「タマモちゃんも料理人に向いてるかもしれないわね。 将来が楽しみだわ。」

「うん! わたしもおっきくなったらみんなといっしょにおみせやるの! だからさかもとのおじいちゃんのりょうりをわたしにもおしえて!」

「私の料理を覚えたいのかい? こりゃ長生きしなくてはな。」

一方の坂本夫妻は前々から薄々気付いていたがタマモもまた横島と似て味覚が鋭く、妻の方は将来が楽しみだと思わず口にするもタマモは当然将来はみんなと店で働く予定で坂本夫妻にも料理を教わるつもりだった。

そんな幼いタマモの将来の夢を聞いてしまった坂本夫妻は驚き互いの顔を見合わせて思わず笑ってしまう。

タマモが大きくなり料理を学べる年になるまで自分達は元気でいられるのかと思うと少し不安が残るが、いい目標が出来たのかもしれないとも感じる。

幼いタマモが木乃香達くらいに育ち料理を教えることを楽しみにそれまでは料理の腕を落とせないなと特に夫の方はやる気を更に高めていた。
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