二年目の春・5

「まさか本当に高畑は動かぬのか?」

「かもしれん。」

その頃魔法世界のメガロメセンブリアでは、先日悠久の風のケリーという若者が高畑に会いに行き聞き出した話が伝わって少し騒ぎになっている。

何だかんだ言いつつ魔法世界の問題に介入して来てクルト・ゲーデルと歩調を合わせるだろうというのがメガロ中枢の見方であり、クルトに手を貸す気はないと言い切り麻帆良に骨を埋めるつもりだとまで言い切ったのは少し予想外であった。


「まさかあの高畑がな……。」

「見方を変えれば我らは愛想を尽かされたとも言えるのかもしれんな。 恩を仇で返し謀略の限りを尽くしたのだ。 当然だろう。」

「人聞きの悪いことを言うな。 何処の国もやってることだ。」

「それはそうだが二十年前の戦後処理は常軌を逸していたとしか思えんぞ。 詰まらぬ遺恨をのこしおって。」

高畑が動かぬことに安堵した関係者は多いが、同時にもう高畑が助けてはくれないことに不安を感じる者もまた存在する。

世界の人々の為にと過去の遺恨を口にせずに協力して来た高畑は腹の中では何を考えてるか分からぬクルトよりも多くの人間に信頼されていた。

そして何度も説明しているがそんな高畑とメガロメセンブリアの決定的な溝は二十年前の魔法世界での大戦の戦後処理が始まりであり、ある程度事情を知る者の中にはメガロメセンブリア中枢でさえ過去のメガロメセンブリアのしたことに不満を感じ文句を口にする者さえいる。


「二十年前の決定に関与した者はほとんどもう居ないと言うのに。 何故我らが戦争を起こしたばかりか後始末さえ失敗した連中の尻拭いをせねばならぬのだ。」

「よせ、誰かに聞かれたらどうする気だ! 建国の八家の連中の耳に入ればどうなるか分からんのだぞ!」

ただそんな不満の声が公になることはなく公にしようとすると魔法世界の秘密やメガロメセンブリアの過去の表沙汰に出来ぬ工作が露見してしまうので、どんな方法を使っても口を塞がれるか消されるのがメガロメセンブリアという国だった。

ちなみに建国の八家とはメガロメセンブリア建国の英雄の末裔でメガロメセンブリアの魔法使い達の最上位に長年君臨している者達になる。

メガロメセンブリアは一応議会民主制都市国家であるが、魔法という力と技術が何より重要視されていて社会の根底にある。

だが現代においては長年の権力の積み重ねの結果、魔法や政治のみならず経済や産業に至るまで彼らの影響力は絶大だった。

まあ実際には先に上げた建国の八家も決して一枚岩ではなく凄まじいまでの権力争いを繰り広げているが、メガロメセンブリアを現在のように魔法世界最大の軍事力がある国にしてメセンブリーナ連合を創設するなど功績もまた多い。

なお余談だが二十年前に真っ先に魔法世界を捨てて逃げ出したのは彼らが中心で、超鈴音の未来世界では魔法世界崩壊前に地球に逃れて地球側の社会で地位や権力を得て火星残留人である超鈴音の仲間達をテロリストと断じて戦争に加担していた連中だが。

世界的に見てメガロメセンブリアでは建国の英雄の子孫としてそれなりに敬意を払われてはいるが、代を重ねるごとに自分達の権力を守るだけになったのが現実でメガロメセンブリア以外の魔法関係者からは王様気取りの連中として嫌われていたりする。


「英雄にまで見捨てられた国か。」

「ゲーデルと組んで余計なことをされるよりはマシだろう。」

少し話が逸れたがお人好しを絵に描いたような高畑がもう助けに来ないかもしれないという話はメガロメセンブリアで密かに流れ、大小様々な影響を与えていくことになる。


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