二年目の春・5

同じ日学園の地下に存在する魔法協会の訓練施設に刀子と古菲や豪徳寺達などの姿があった。

そこは武術や剣術などの主に体術を訓練する施設で見た感じは板張りの道場のようである。


「本日の講師を勤める葛葉刀子です。 流派は京都神鳴流よ。」

実はこの日刀子は魔法協会の仕事として魔法協会員や外部協力者向けに体術指導をする日であった。

先月には新規に魔法協会に所属なり外部協力者になった人向けの説明会と歓迎パーティや停電を利用した大規模夜間訓練などあったが、あれ以外にも細々とした講義や訓練があり連休のこの日は麻帆良でも有数の実力者である刀子の訓練だけに訓練施設となる場所には八十人ほど来ていて混雑している。

なおこの日の刀子の訓練は午前九時からと午後一時からと午後六時からの三回あるも、一日いっぱい予約で埋まっているほど盛況だった。


「まずは実力ごとに分けるわね。」

今回は午前九時の一回目の訓練であったが古菲や豪徳寺達を始めとしたガチで体術を習いたい人と、最低限の魔法は使える一般魔法使いにほぼ素人で半ば見学に来た者と実力差がかなり開きがある。

刀子自身が魔法協会にてこのように指導するのは年に数回しかなく、本気で強くなりたい人から噂の神鳴流を見たいだけの人まで目的は様々だが若い女性ということもあり高畑と同じくらい人気の講師であった。


「えっと、古菲さん。 実演するから悪いけどちょっと手伝ってくれる? 」

まあ実際のところこれだけの人数を一回三時間程度の訓練では教えれることはほとんどないが、魔法協会員の交流の一環であるしトップの実力を見せるのは若い魔法協会員達には必要なことである。

まずは実力を見せる為に基本体術の実演をすることにするが、強い相手と戦いたいと本能のままに見つめる古菲の熱い視線に気付き手伝いを頼む。


「任せるネ。 なんなら本気で来てもいいアルヨ。」

「貴女は確かに強いわ。 並の魔法使いだと相手にならないでしょうね。 でも表の格闘技じゃあ本物の裏の実力者には勝てないわよ。 特に私の使う神鳴流は今も戦場で使う退魔の技なの。 根本的な目的が違うのが分かるかしら?」

高畑が今も時々修行をつけてるしく本来の歴史よりもかなり早い段階で驚異的なスピードで強くなってる古菲は、魔法協会でも高畑に次ぐ実力者だという刀子と戦ってみたくてウズウズしているようだった。

だが刀子の見立てではそれでも古菲ではまだ刀子は元より刹那にも勝てないと見ている。

もちろん古菲の強さは刀子も感じているが、少し乱暴な言い方をすれば命のやりとりをする裏の戦いと違い古菲はまだ命のやりとりをしない格闘技の試合をしてるようなものなのだ。

神鳴流は退魔の剣として人を守る為の流派だが当然なこととして人を害する者を退治するし、場合によっては相手が人で命を奪うこともある。

ただ純粋に強さを求めるだけの古菲では命のやりとりを前提とした神鳴流に実戦では勝てない。


「やってみたいと分からないネ。」

「……いいわ。 ちょっと順番が違うけど、どのみち実力を見せるのも訓練の一環だしね。 他の貴方達もこれだけは覚えておきなさい。 私達魔法関係者は趣味や遊びで戦うんじゃないわ。 闘いを楽しみたいなら大人しく表の世界でやってなさい。 迷惑よ。」

この時訓練施設は少し異様な空気に包まれていた。

表の世界で格闘技大会のチャンプとして圧倒的な強さを誇る古菲と、裏の世界で実力者だと言われる刀子の実力を訓練の参加者達もまた見てみたいようなのだ。

実は同じような連中は魔法協会にも居るが、今回は特に古菲や豪徳寺達が居るせいか自身の強さを求めるような連中が多いようである。

一方の刀子としては高畑があまり厳しいことを言ってないだろうことを古菲の様子から悟り、あえてここで自分が厳しいことを言わねば誰も古菲には苦言が言えないのだろうと嫌われるのを覚悟で厳しい言葉を使っていた。

純粋に強さを求めるのも悪いことではないが、その危険性も行く先も知らぬまま裏の世界に関わりつつある古菲や豪徳寺達に刀子は危機感を抱いている。

そして最近特に柔らかくなったと言われる刀子の厳しさに参加者達は静まり返り何も出来なかった。



44/100ページ
スキ