二年目の春・5

翌日の連休最終日は麻帆良亭の不定期開店の日である。

今回で五回目になる麻帆良亭の一日限定復活であるが、この日も横島達の総出に加えて臨時に美砂達三人がアルバイトに入る予定だった。

さすがに何度も限定復活しているとすでに失われた味という目新しさは薄れつつあるものの、前回春祭りに出店したことや連休最終日という影響を考えるとこの日も混雑が予想されている。

事実予約数は前回までとほとんど変わらぬ数が入っており、主に県外や市外から来る客や忙しい社会人などが予約をしていると思われる。


「おじいちゃん、もう並んでるの? 寒くない?」

「このくらい平気じゃ! ワシはまだまだ若いからのう。」

木乃香達は朝早くから来て仕込みや開店準備を手伝っていたが美砂達が開店三十分前に店に来ると、すでに店の前では常連の年配者達数名を先頭に十五人ほど並んでいた。

五月とはいえまだ朝は寒いが年配者は元気が有り余る様子で今日の麻帆良亭の料理を楽しみにしているようだ。


「タマモちゃん一面じゃったのう。」

「そうそう、可愛く写ってた!」

年配者達はほぼ毎日店に来てはアナスタシアに熱を上げてるメンバーで美砂達とも親しいが、彼らは店内へと入ろうとする美砂達にこの日の麻帆良スポーツの一面にデカデカと掲載されたタマモの写真を見せて嬉しそうな笑顔を見せる。

昨日散歩中に人助けをしたタマモと茶々丸の記事は他にスクープらしいものがなかったこともあり一面に掲載されていて、タマモと茶々丸のツーショット写真が大きく掲載されていていたのだ。

しかも年配者の何人かはタマモについて受けたのインタビューがそのまま記事になったらしく、自分も一面に載ったと喜んでいた。


「ところでお前、その紙袋の中身はなんじゃ?」

「これか? これはタマモちゃんへのご褒美じゃ。 今日はちょうどこどもの日じゃしのう。」

和やかな雰囲気でまるで自分の孫のようにタマモのことを語る年配者達だが、一人の年配者がいつもは持ってない小さめな紙袋を持ってることに他の年配者が気付き中身を尋ねると和やかな雰囲気が変わり始める。


「なんじゃとっ!? 貴様裏切る気か!?」

「裏切るとは片腹痛い。 タマモちゃんをずっと一番に見守って来たのはワシじゃ。」

「なっ!? 勝手なこと抜かすな! この耄碌ジジイ!」

年配者の一人が気を利かせて人助けのご褒美にとプレゼントを用意したことで、先頭に並んでいる年配者達はハッとして出し抜かれたことが面白くないらしい年配者が声を荒げると口喧嘩を始めてしまう。

身寄りがないと言われるタマモだけに自分こそがタマモのお爺ちゃんなんだと考えていた年配者が多かったらしく、誰かに出し抜かれるのは我慢が出来ないらしい。


「この人達ってさぁ。」

一方目の前で年寄りが子供のようなけんかをするのを見せつけられた美砂達は、年を取っても変わらない人は変わらないんだなとしみじみと感じていた。

アナスタシアに熱を上げたりタマモの一番のお爺ちゃんは自分だと争う年配者達は、十代の男子と根本が大差ない気がしてしまう。


「はいはい、そこまで。 あんまり店の前で騒ぐとアナスタシアさんに言いつけるわよ。」

結局年配者達の不毛な争いは騒ぎを聞き付けて店内から姿を見せた明日菜が止めに入り一応収まるが、タマモへのご褒美を持参した年配者は勝ち誇っており他の年配者達はこの男よりもいいものをプレゼントしなければと対抗心を燃やすことになる。

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