アナスタシアと超鈴音の勝負は終始無言のままだった。

騒がしい周囲から隔絶した別世界のように二人は言葉どころか表情さえ変えない。

だが内面はまた違うもので超鈴音の方は背筋に冷たいものが流れたのを自覚する。

勝負自体は互角か少し押しているが気を抜くと一気に負けると感じ、まるで命を賭けた真剣勝負のような緊張感を持っていた。

そして皮肉なことに超はアナスタシアと呼ばれタマモや年配者達に囲まれるエヴァを見ることで、未来の無限の可能性と自身の生まれ育った未来がすでに手の届かない遠く彼方へと行ってしまったことを実感する。

サウザンドマスターが止めるまで誰も止められなかった伝説の存在であるエヴァだが、肝心のサウザンドマスターとエヴァがまともに戦ってないことを超は知っている。

結局エヴァを止めたのはナギの人としての思いやりであり、そして呪いから開放された現在の彼女を取り巻くのも周囲の人の優しさなのは力で歴史を変えようとした超にとっては皮肉でしかない。


「参りました。 私の負けネ。」

その後も勝負は終始超のペースで進んでいたが、終盤の一手により形成は一気に逆転し超は負けてしまう。

未来において魔法と科学の技術により学ぶのではなく知識を脳に与えられた超ではエヴァの意図を見抜けず終盤の一手を防げなかった。

そしてそれが自分の限界なんだと超鈴音は改めて痛感する。


「うむ、凄い勝負じゃったな。」

「わしらが勝てんはずじゃ。」

二人の対局が終わると僅かながら緊張感に包まれていた周囲の年配者達はホッと一息をつくと打ち終わった碁盤を見ながら勝負を振り替えるが、アナスタシアは紅茶とケーキを頼み優雅に勝利の一時を味わう。


「超さんはツメが甘かったな。 でもまあ慣れない囲碁でよくやったよ。 アナスタシアは最近は毎日やってるしな。」

「そうじゃな。 流石は天才少女というところか。 将来がたのしみじゃ。」

勝負の勝ち負け自体に実は当人達はさしたる価値を見出だしてないが、横島を含めた周囲は勝ったアナスタシアはもちろんながら負けた超に対しても善戦を労っていた。

ただ超は横島が慣れない囲碁と口にしたことで対局を終えて始めて表情を変えて驚きの表情を見せるも、周囲の年配者達もまた同じ意見らしく頷いている。

超鈴音の囲碁の実力は高いが見る人が見れば素人とまでは言えなくても慣れてないのは分かる程度でしかない。

所詮は知識として知ってるだけで元々優秀なだけにある程度まではやれるが長年経験を積んだエヴァには勝てるはずがなかった。


「次はワシと勝負じゃ！」

「懲りんな貴様も。」

「ワシが負けたら今日の支払いはワシがするが、勝ったらデートしてもらうぞ！」

二人の勝負が終わり超はアナスタシアとは挨拶程度の会話をすると席を移動し葉加瀬と高畑と共に少し遅い昼食にするが、アナスタシアの方はまたもや年配者の一人に絡まれるように勝負を挑まれる。

ここ最近はどういう訳か勝負に勝てばデートで負ければ一日の支払いをするということになっていて、アナスタシアが店で自分で支払う日はほとんどなかった。

実は外国人のアナスタシアが毎日働きもせずにブラブラしてる姿を見て年配者達はお金の心配をしてるなんて本音も密かにあるのだが。