二年目の春・5

「あっ!? きりんさんだ!! きりんさんこんにちはー!」

さて動物園に入った一行は周りの家族連れなどと同じように園内の動物を見て歩いていた。

本来は狐の妖怪であるタマモだが変な封印をされていたせいで種族としての記憶や知識すら欠けているので、今のところなんとなく出来る変化以外は術も使えぬ彼女は動物の言葉を理解し話せる以外は特に人の子と変わらない。

ただ狐としての知識はないが日頃から猫達と散歩なんかしてるので代わりに猫達の常識は理解しているが。

そんなちょっと変わった子供であるタマモは初めて見た生の動物達に喜び、毎回動物達に挨拶をしている。


「ええな~。 ウチも動物さんとお話してみたいわ。」

尤も幼子が動物達に話しかけたり声をかけるのは珍しくないので特に目立ってる訳ではなく微笑ましい光景になっているのだが、木乃香は思わず動物と話せるタマモが羨ましいとこぼしていた。


「誰でも出来る訳ではないですからね。 私はハーフですが話せませんし。」

「やっぱりせっちゃんも話せへんのや。」

「私のような存在と彼女は元々の素質は桁違いですから。」

この日一緒の一般人のまき絵と亜子は横島やタマモと一緒に動物に手を振ったりしていて話が聞こえる範囲には居なく、木乃香が思わずこぼした言葉に対し控え目に木乃香の近くを歩いていた刹那が自分と比較して答える。

本来の力や記憶があればまさに力でも美しさでも傾国の存在にすらなりうるのかもしれないタマモは、刹那からするとエヴァ同様に雲の上の存在に思えるのだろう。

まあ刹那は自虐的な性格なのですぐにそういう方向に考えたがるだけとも言えるが。


「ねえ、まき絵ってさ。」

一方美砂達は横島に抱きついてる桜子を除きあやか達などと一緒に横島やタマモに近い位置で一緒にキリンを見ていたが、美砂はなんとなくここ数日のまき絵の変化が気になり始めていた。

元々彼女は入り浸るほどではないが横島とも気が合うらしくよく店に来る方だったが、ここ数日で明らかにまき絵の態度は変化している。

現に今も横島はタマモを肩車しつつ桜子とまき絵に左右から抱きつかれていて明らかに以前より距離が近い。

まあタマモを肩車してることもあり絵面的には子どもに引っ付かれるお父さんといった感じだが、まき絵の方はお父さんというよりは異性を意識してるように見えていた。

もちろん完全な恋愛かと言われると疑問符がつくが憧れや好意だけとも言い切れない。


「昨日と一昨日は二人だったもの。 彼女には刺激が強かったのかしら?」

「那波さん……刺激って。 劇薬じゃないんだから。」

なんとなく変わったまき絵の変化に少女達はそれぞれに感じたり思うところがあるようだが、千鶴は少し心配そうに刺激が強かったのかとまるで劇薬のような言い方をして周りの少女達を笑わせてしまう。

だが千鶴の言うことが一理あるのではと思う少女も居て、女子校ゆえにまき絵にはあまり男性に免疫がなかったのかと今更ながらに考えている。

何人かは恋愛と言える情はないがそれでも多かれ少なかれ横島に惹かれて一緒に居る女性陣からすれば、まき絵と横島を二人だけにしたのは失敗だったかと僅かに後悔していた。

まあ現状では横島もまき絵も共に恋愛を意識してはなく一緒に楽しんでる程度であるも、特に横島の場合はあまり恋愛を全面に出すと逃げてしまうので親しくなるには何かを一緒に楽しむのが一番の近道だと言える。


「明確に言えば横島さんはフリーな訳でして、誰と何をしても問題はないのです。」

「ゆえ~。」

結局横島の周囲は少女達によりガチガチに固められているものの、まき絵が友人であることや色恋沙汰がどうこうという話ではないので少女達が油断した結果だった。

しかも横島もまき絵も悪気も何もないので、モヤモヤした気持ちを感じる女性陣は言い様のない不安を感じることになる。

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