二年目の春・5

「他人から見たことが真実とは限らないんだよ。 まき絵ちゃんだってそうだろ?」

「うーん、それとこれとは違うような……。」

正直あまり否定する意味もないのだが、やはりモテる扱いには抵抗がある横島はまき絵の今回の一件を絡めてそれを理解してもらおうとする。

ただまき絵はアナスタシアという明確な過去の女性が居て、麻帆良でも少なくない女性に好意を寄せられてる横島と自身の子供扱いの件が同じとは思えないらしく首を傾げ悩み出す。


「さあ、俺のことなんていいからもう一回通して練習してみようか。」

結局横島はあまり過去を掘り下げると嘘がバレる可能性もあるので、ほどほどに話を切り上げまき絵を練習に専念させる。

練習中ばかりか休憩中までもコーチの陣内がジッと見ているので正直居心地が良くない。

本当はもっと気楽にやりたいのだが。


「うわっ!? また出た!?」

「出たって、幽霊じゃないんだから。」

そして練習が終わるとこの日もまき絵を連れて先日のラーメン研究会の屋台に足を運んでいたが、横島とまき絵が姿を見せると大学生らしき集団が驚き出た出たとまるで幽霊でも見つけたように騒ぎ出す。


「なんだ? あのマスターまた新しい女の子に手を出したのか?」

「手を出したのかは知らんがこっちには新体操の練習をしに来てるらしい。」

「あの人、料理人じゃ無かったのか?」

「知らん。」

僅か数日のことだが横島が大学部のエリアに夜な夜な女の子を連れて来てると当然噂にもなるし、勘違いというか明後日の方向の噂になることもあった。

一部では横島の新しい女の子かと噂され始めたまき絵であるが、流石に麻帆良と言えども夜九時を過ぎた頃に男女が二人で出歩いてればそういう噂をされてもしょうがなかった。


「うふふ、新しい女の子だって、マスター。」

「いや、誤解されるような行動は止めて欲しいんだが。」

なお当事者である二人だがまき絵は自分が横島の新しい女かと言われることが少なくとも嫌ではないようで、まるで噂をする大学生に見せつけるように横島の手を繋ぎ始める。

先日には小学生の演技だとか子供っぽいと言われただけに大人である横島と付き合っているように見られることが少し嬉しいらしい。

まあ中にはロリコンかと呟く男も居たが、あいにくとまき絵はポジティブに考え自分が魅力があるように見えるのかと感じなんちゃって彼女を気取っていた。


「やっぱり美味しいね。」

「ラーメンって作るの時間かかって大変なんだよなぁ。 よく大学生に作る時間あるな。」

そんな横島とまき絵だがこの日のラーメンも先日と同じ鶏白湯ラーメンで、二人はまだここでしか食べられない貴重なラーメンを美味しく頂く。

夜風がまだ冷たい春の夜に屋台で温かいラーメンを食べるということはまき絵にとっては経験がないことで、周りがほとんど大人か大学生であることも合間ってまき絵はほんの僅かだが大人の世界を体験することになる。

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