二年目の春・5

「刀子さんお帰り。 今ご飯用意するわ。」

一方店の方はすでに閉めていて木乃香達が後片付けと明日の仕込みをしていたが、刀子が来ると木乃香は刀子の為にと残しておいた夕食を出していた。


「横島君は今日も特訓なの?」

「ええ。 横島さんもまき絵さんもやる気ですから。」

いつもならば少女達はすでに帰ってる時間だが、木乃香がのどかと一緒に横島も大変だろうと明日の仕込みもやっていたため少し遅くなっている。

店から女子寮は近いが未成年の女の子が帰るならば一緒がいいからと美砂達もまだ地下で楽器の練習をしているし、明日菜と夕映とハルナは店内で勉強やら仕事やら怪しげな本の作成やらしていた。


「彼はああいうタイプに弱いのかもね。 純粋というかなんというか。」

横島がまき絵の新体操の指導を始めたのは昨日一緒に夕食を食べていたので刀子も聞いていたが、なんとなく横島はまき絵や桜子のようなタイプに弱いのかもしれないと感じている。

先日の露天風呂の混浴もそうだったが、純粋というか天然というか微妙だが裏表なく素直にぶつかっていくと嫌とは言えないのだろうと思う。

まあ麻帆良学園では学校外の人間が生徒の指導をするのは珍しくはなく、部活やサークルなどではOBや近隣の人にコーチや監督を頼むのはよくあることだった。

予算が出るか出ないかは別問題だが部活やサークルを作ること自体は麻帆良学園では比較的簡単で、教師を顧問に据える必要はあるが総じて忙しい教師が多いので指導者を部外に頼むのは昔からあったことである。

流石に個人でコーチを頼む生徒は珍しいが、学校外での自主練は珍しくはないし物好きな人がコーチをしてもさほど騒がれるほどでもないので問題がある訳ではないが。

ただ木乃香達と違い刀子はまき絵をあまり知らないので横島とまき絵の関係が少し気になるらしい。

正直刀子とは対局にいる女であり微かに素直に甘えられるまき絵が少し羨ましいとも思うのかもしれない。


「でもさ、二ノ宮先生も影で子供っぽいなんて言うくらいなら指導してあげればいいのに。」

「生徒の指導って難しいのよ。 特定の生徒に片寄ると贔屓だとか言われるし部活なんかだと今回のような選抜テストなんかあるから下手に指導が片寄るとそれありきだと思われるもの。 特に新体操なんかだと審査基準が曖昧だから。」

一方刀子が来たことで明日菜はふと新体操部顧問の二ノ宮の対応について口を開くも、刀子は教師の側から見た指導の難しさを語りそう簡単ではないと教える。

刀子は二ノ宮を同じ女子中等部の教師としてそれなりに知っているが、運動部出身らしく若干体育会系の人間ではあるが普通の教師だとの印象があった。

正直女子校での女教師は若ければ若いほど生徒に近いので意外に指導が難しい。

こういう言い方が適切かは分からないが舐められたら指導は出来ないし、女子だけの集団なので関係構築に失敗すると陰湿な対応をされたりと悲惨になる。

麻帆良学園は校則でガチガチに縛らないので他校に比べるとストレスがないのか女子中等部なんかだとあまり陰湿になったりはしないが、それでも教師という職業柄気苦労が絶えないのは変わらなかった。

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