二年目の春・5

翌日の夜は横島とまき絵の二人で練習に来ていた。

流石に二時間も練習を見てるだけなのは飽きるようで木乃香達は店の後片付けをして帰るとのことで、美砂達とタマモも楽器の練習をするからと着いて来なかった。


「ちょっとは良くなったかな?」

「そうだな。 だいぶ良くなったぞ。」

横島の指導はまき絵としては初めてのタイプで直接ああしろこうしろとは言われないのでいまひとつ実感が湧かないらしい。

ただこの日はビデオカメラでずっと撮影していて終わったら見てみることにしている。

近くでは昨日に続き見張るように新体操部コーチの陣内が見ているので微妙な緊張感はあったが、横島としては選抜テストに向けて適度な緊張感は必要でありそれはそれで構わないかと考えている。


「エヘヘ……。」

「ただ深呼吸して気持ちを落ち着かせることは忘れんでな。」

昨日一日で横島はまき絵の動きの癖や特徴は掴んでいたが、やはりよく知らない新体操では技術的なアドバイスを安易にするのは避けていた。

そんな中で横島がアドバイスした一つが呼吸に関してである。

若さもあり元気もあるまき絵は運動神経もいいのでポンポンと練習していくが、横島は演技の際の呼吸の取り方についてだけは少し教えていた。


「よう、あんちゃん達。」

「あっ、どうも。」

「こんばんは!」

「相変わらず面白い教え方してるな。」

昨日のように大人数ではないがやはり横島とまき絵は目立つようで周囲の注目を集めているが、途中休憩していると新体操部監督の山部が声をかけてくる。

彼も途中から横島とまき絵を見ていたようで教え方を興味深げに見ていた。


「俺は正直新体操ってほとんど知らないんっすよ。」

「嬢ちゃんは成長期だからな。 そのくらいでいい。 怪我しないでやることが第一だ。」

周囲の目もあり特別珍しいことはしてない横島だが、監督やコーチなんて仕事をしてる側からすると気になるのが本音のようだ。

まあ横島も昨日の迂闊な発言の反省からかあまり余計な問題になりそうな行動は慎んでいるので、昨日のような騒ぎにはなってないが。



「ねえ、マスターって誰と付き合ってるの?」

「ブッ!?」

そしてこの日も二時間ほど練習した横島とまき絵は昨日と同じラーメンの屋台に行こうかと話ながら歩いていたが、まき絵は唐突に妙な質問をして横島を慌てさせる。

実のところ唐突なのは横島からすればで、まき絵や身内と言える少女達以外の3ーAのクラスメートや店の常連からするといい加減教えてくれてもいいのではと考える者は結構いた。


「誰とも付き合っとらんわ!」

「えー!? 嘘だ!」

「モテない男がそんな嘘ついてどうすんだよ。」

日頃から横島の周りにはタマモや木乃香達にアナスタシアと名乗る大人のエヴァなど常に女性が居て、冗談混じりではなく真面目に誰と付き合ってるのかと聞けた者は居ない。

まあ横島には過去に訳ありだと噂なので気を使って聞かない者なんかも多い中で、まき絵はちょっと空気の読めない性格なため素直に聞いてしまったらしい。

無論横島は付き合ってる人は居ないと本当のことを告げるが、まき絵はそれを全く信じてないというか信じられないようだった。

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