二年目の春・4

「大人っぽいですか?」

「うん!」

タマモがまき絵を連れて店に戻ると夕映はエプロン姿でカウンターの中で飲み物を入れていた。

お帰りなさいと迎えられたタマモはさっそく夕映に大人っぽくなった訳を尋ねるも、夕映は当然ながら意味が分からず首を傾げてしまう。


「あー、ごめんね。 私のせいなんだ。」

今一つ話が通じないタマモと夕映の姿にまき絵は事情を話し始めるが、まき絵にしてはと言えば失礼かもしれないがデリケートで難しい話題に流石の夕映もすぐには答えが浮かばない。


「新体操ねぇ。」

結局タマモとまき絵は厨房に居る横島の元に話をしにいくことになるも、横島もまた話を聞いて少し考え込んでしまう。


「二ノ宮先生が子供っぽいからダメだろうって。」

「俺はまき絵ちゃんのそんなとこ好きだけどな。 言い方が悪いかもしれないが新体操とかフィギアスケートとか作られた笑顔を全面に押し出したのよりはよっぽど。」

タマモは大人っぽくなる方法を夕映や横島に聞こうとしたようだが、横島はまき絵の話を聞くうちに自身の考えというか価値観を話して聞かせる。

ちなみにこの時厨房ではのどかが手伝っていたのだが、何気ない相談に相手の欠点というか落ち込んでるところをナチュラルに好きだという言葉を真顔で言い切る横島に内心でドキドキしていた。

もちろん横島に他意はないのだがそんなことを軽々しく口にするから周りに女が増えるのだと、この人は全く自覚してないのだとのどかはちょっぴり複雑な心境になる。


「え~!? そうかな?」

「そもそも演技や表現に正しいやり方なんてあるのか? まあ点数ってか評価されやすいやり方はあるんだろうが。 他人からの 評価の為に好きな新体操で自分を無理に変える必要あるのか?」

一方の横島は新体操はよく知らないと前置きはしているが、まき絵の演技を子供っぽいの一言で片付けていいのかと考えていた。

元々どちらかと言えば天才肌で型にハメると個性が死んでしまうような横島は自分の感性とやり方で生きて来ている。

そのせいもあって学生時代は大成しなかったが結果として今がある訳だし。

横島自身はまき絵の演技を昨年の麻帆良祭で見ていて素人目ではあるが、楽しそうで良かったと思っているのだ。


「うーん、そう言われると悩むなぁ。」

「俺は大人とか子供って考えは止めた方がいい気がするけどな。 あざといまでの演技をする子役なんて見てて楽しくないし。 演技の幅を広げたいってのならいいと思うが。」

二ノ宮の言い分もあるのだろうと若干言葉を選んでいる横島であるが、麻帆良に来てからは高畑や刀子の苦労を知り新田などの教師とも出会った影響で幾分改善してはいるが元々横島はあまり教師という人種を信じてない。

小学校の頃ははあからさまに差別されたし中高の頃は事なかれ主義のような教師しか知らないのだから無理もないが。

もちろん二ノ宮の言い分が間違ってるとは横島も思わないが、横島はそれよりもまき絵の個性や良さを生かしてやるべきではと考えていく。

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